採用時点での認識不足【言い訳の多いパート編】

 

 

 

 採用時点での認識不足によるトラブルですA社は創業20年従業員15名の貿易業です。

 

 8カ月前、事務担当として採用された女性パート従業員B子は、ハローワーク経由で応募してきた50代シングルマザーでした。男子高校生2名抱え離婚したばかりのため生活費を捻出すべく求職活動を行い、募集の少ない事務職の仕事にやっと就職できたのです。B子は経理専門学校卒業後、一般企業の事務職として就職し1年半で結婚、専業主婦となり25年間が経過していました。

 

 A社長は、離婚後間もないことで必死になって働いてくれるだろうとの期待と少しでも力になりたいという優しさで、週3日・各日6時間のパート従業員として採用しました。

 

6カ月後、社長はB子の勤務態度に愕然としていました。社会人経験1年半、その後25年のブランクがあったことを差し引いても、事務処理にかかる時間は同期入社・同年代のパート社員の4倍、事務手続きで外出させると他パートの2倍の時間をかけても帰社しない、そのことを注意すれば言い訳が続き素直に反省しない状態でした。

 

たまりかねた社長は、1カ月以内に改善するようにと「業務改善指示書」を作成し面談の上、記名・押印を受けました。さらに1カ月後、依然として改善の兆しは見えず、2度目の1カ月の期限付き「業務改善指示書」に記名・押印を受けました。

 

改善期限が迫ると、捻挫による1週間の欠勤の後、本人から会社への退職を告げる電話が入り、その後、退職手続きのため会社で手続き等面談することになりました。同時に、過去3日間の休業補償を求めるFAXが会社に届いたのです。内容は、直近3カ月間に、会社の都合で約束の週3日を下回る週が3日あるとの主張で、休業補償を求めるというものでした。

 

社長は、恩を仇で返す行為に怒りは収まりません。雇用契約書の文面には、週3日を基本とするがシフトを組む都合上、週3日を下回る場合がある旨記載済みです。各パートの出勤日数は、休日が多い月は、ワークシェアリングすることで労働機会を均等化しており言いがかりとしか受け取れません。

 

後日、B子と退職手続きのため面談することになりました。

 

会社は、B子との面談前に、社会保険労務士、労働基準監督署の担当課長、労働基準監督官と協議した結果、

 

⑴雇用契約書で週3日勤務を保証していない(最低限、週2日勤務は保証)

⑵3日間の具体的な曜日指定はない

⑶休日が多く、出勤希望日が重なった月は、全パート従業員でワークシェアしている

 

ことで、労働基準法26条の休業補償の規定に適応しないという結論です。

 

 面談当日、B子の話では、事前に労働基準監督署で自分にとって都合の良い相談を行い、休業補償の話を聞きだし、要求してきたのです。会社側は、書面提示により今回の経緯と休業補償の規定に適応しない旨説明したところ渋々でしたが退職合意書への署名捺印を受け取り退職となりました。 

 

会社としては、なんとも後味の悪い結果となりました。

 

 

 

【ポイント】

 

    採用時点の面接官に気がかりなことがある場合は、必ずトラブルに繋がります。社長は独断で採用せず、幹部社員等に相談することで冷静な判断が可能となり、採用ミスは回避できます。

 

    履歴書の行間からどれだけの採用リスクを読み取れるかは、訓練によって克服できます。既存の社員の履歴書と現状とを比較することでも、ポイントがどこにあるかに気づくことが出来ます。

 

    会社は、労働基準監督署を避けるのではなく、十分に調べた上で然るべき職員に相談するなど、リスク回避に活用することがポイントです。

 

 

 

【労働基準法26条】

 

(休業手当) 第二十六条  使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

 

 

※第一法規「Case&Advice労働基準Navi」のコラム(h28年12月号、相川泰一著)より転用