2022/06/01
 会計事務所A社(創業25年、社員6名)の社長より、自社に足りない「優秀な社員」を採用したいと相談がありました。社長の考える「優秀な社員」を整理すると、変化に対応できる人材、コミュニケーション能力、専門性及び自己管理能力の高い人材でした。これら要素をすべて満たした人材を採用することは難しいため、既存社員の性格適性検査や勤務実態を一覧表にし、何処を補填するのか分析しました。  A社の問題点は、同調圧力が強く変化を避ける社風、顧問先の管理を個々の社員が独自に行うため情報共有など社員間の連携が取れていないこと、スケジュール管理が不得手で期限直前の対応となること、でした。  後日、欠点を補う人材を募集すると、運よくB子(39歳)の応募がありました。経験も豊富で、専門性、論理的思考力を備えています。コミュニケーションも取れるタイプで、しかも夜間大学に通いながら資格取得を目指し、概ねA社の望む要素を備えていたため即採用しました。  入社当初、社長はB子に気さくに声を掛けることで、関係は良好でした。半年後、環境に馴染んだA子は、高い成長意欲から業務改善に取り組み、社長に上申するようになりました。最初は、黙って聞いていた社長ですが、回数を重ねるうちに本質を突かれることに堪えきれなくなりました。話を遮り提案を否定する態度を見せるようになった社長に、B子は不満を漏らし始めました。このままでは、B子は退職してしまいます。  社長は、B子をA社の将来には不可欠な人材だと理解していましたが、気持ちの整理に少し時間を要しました。B子の退職を避けるためには、各提案に誠意を持って対応する姿勢を示すことが大切です。社長の気持ちの整理がついたころ、古参役員が同席し社長とB子の面談が行われました。  古参役員の取り計らいもあり、社長はB子の意見を最後まで聞くことが出来ました。B子へ感謝の気持ちを伝え、検討結果は後日伝えることにしました。その後、社長はとB子へ出来ることと実施時期を伝えました。早速、提案のいくつかは業務に取り入れられました。  中小企業のオーナー社長には、過去の成功体験に縛られるために、他人に意見されることを嫌い、思い通りに物事が進まないとキレてしまうタイプも少なくありません。採用難の中、運よく求める社員を採用できても、社長が社員から出された改善案に向き合わなくては、不満を募らせいずれ退職します。  今回のケースでは、古参役員の仲介により社員の要望にスムーズに対応できましたが、相応な仲介者がいつも同席できるとは限りません。社長自身で社員と向き合えるように自身が変化することが必要だと考えます。  「優秀な人材が来ない」と嘆く前に、良い人材を戦力化するためには、社長自身が能力の高い人材を受け入れるだけの包容力を身につけることが近道であると感じる出来事でした。 第一法規『Case&Advice労働保険Navi 2022年4月号』拙著コラムより転載

2022/05/01
 今回もコロナ禍で雇わない経営に舵を切った社長の事例です。  3店舗・社員8名・整体業のA社の一店舗で、店長、中堅社員が相次いで退職しました。理由は、独立開業とコロナ禍で歩合給の支給部分が減ったことでした。そこで、営業体制をどう整えるかの相談が社長からありました。...

2022/04/01
 これまでは、コロナ禍でも積極的に人員補充を行う中で生じたトラブル対応について触れてきました。今回は、雇わない経営に舵を切った社長の事例です。  社員3名の理容業のA社長からの相談です。コロナ発生前までは、狭い店舗内の動線を工夫し、3名の顧客に同時対応していました。...

2022/03/01
 中小零細企業の社長は、社員は家族同然と考え、社員の将来を想いやり給与や福利厚生の改善に力を注ぎます。しかし、権利意識が強くなっている近年、誠意が全く伝わらないと嘆くケースが多く見られます。  社員50名の土木業の社長からの相談事例です。...

コンサル会社(社員25名・創業15年)での出来事です。 「2年前に採用した社員A男(52歳)だが、仕事が遅くやる気があるのだろうか等と、取引先や他社員からクレームが入っている。出来れば、自主的に辞めてもらいたいところだが、配置転換などで雇用維持を図るしかない。何か良い手立てはないものだろうか。」とのことでした。 状況を整理すると、...

2022/01/01
 社員30名・創業25年の不動産業の社長から相談がありました。 「そろそろ後継者に事業継承したい。身内が継承しない中、ベテラン社員が独立したり転職したりと、後継者探しに苦慮している。これはと思う人材にはなかなか出会えない。協力してもらえないか」  整理すると問題点は次のとおりでした。...

2021/12/01
 今年10月から最低賃金が大幅に増加改定されました。最高額は、東京都の1,041円、次に神奈川県の1,040円となります。  最低額は沖縄県の820円、全国で800円を超えましたが、今後も政府の方針として全国の加重平均値が1,000円になるように最低賃金の上昇が続きます。  東京都(全国の加重平均値)の最低賃金を20年前と比較すると次の通りです。...

2021/11/01
 新型コロナの第5波では非常事態宣言の延長も検討され、飲食店などの接客業だけではなく、対面を基本とする医療業務にも支障をきたしています。...

2021/10/01
 社員10名で3店舗を経営する整体院A社長から興奮した様子で電話がありました。勤続20年のエース級B店長が、独立するので退職したいと言ってきたが、徒歩圏内に出店するかもしれず顧客を持ち出されては困る。「何とか取りやめさせる方法はないか」との相談でした。...

2021/09/01
 緊急事態宣言が解除されワクチンの接種も始まりましたが、第4波の到来や変異株の拡散などコロナ収束への先行きは不透明です。社員は、在宅リモートワークによる家族の関わり方の変化、長引く自粛疲れ、企業の人員削減など、将来への不安を抱えています。不安からくるイライラする気持ちを抑えきれずに、会社や顧客をはけ口とした結果、トラブルになるケースが見られます。  A社は、創業10年、社員10名、調剤薬局業です。 男性社員B夫(38歳)は、勤続15年の薬剤師で普段は大人しいタイプです。しかしある日、薬局内で高齢男性患者C男の前でキレました。C男は、B夫の指示を取り違え処方箋を異なるボックスに提出していたため、なかなか受付に呼ばれません。不審に思いB夫に「ずいぶん時間が経つのですが、まだでしょうか?」と尋ねたところ、「さっき、ここじゃねえって言ったじゃん!チッ!」と舌打ちをされた上に処方箋を投げられました。コロナ感染対策のため、マスクやアクリル板越しであったため、B夫の指示が聞き取れなかったのです。非礼なB夫の態度に怒ったC男が責任者の謝罪を求めたため、社長が出ていきましたが収まらず、薬剤師会や役所にまで連絡が行き大騒ぎとなりました。事情を聴くと、一人暮らしのB夫は、コロナ禍で友人との接触も断たれ孤独感や不安から顧客に怒りをぶつけてしまったとのことでした。  D社は、創業30年、社員20名、エステサロンです。  女性パート社員E子(50歳)は、ある日突然、顧客の前で、「消毒に今時アルコールでなく次亜塩素酸を使うのですか?」と大声で不満をぶつけました。当時、アルコールは入手困難であったため、次亜塩素酸水を状況に応じて併用していました。社長は既に書面と口頭でスタッフに周知していましたが、E子は理解しておらず、再度説明を行いその場は収まりました。数日後、「社長、この職場では自分の考えも主張できないのですか?私は、辞めたほうがいいですか、もう疲れました」と、顧客の前で消毒対策に不満を訴えたため、職場は不穏な空気に包まれました。  後日のE子の話では、夫が在宅勤務で長時間家にいることによるストレスや、夫に早期退職の話が上がっている中で悩ましい住宅ローンの残債や子供の学費問題、更年期から来る不安などが重なっていたとのこと。職場での八つ当たりに繋がっていました。  いずれのケースでも、今までにない社員の反抗に面食らい怒りに震えた社長は、解雇したいと相談してきました。解雇が有効と認められるためには、①解雇に客観的に合理的な理由があること(客観的合理性)、及び②解雇が社会通念上相当であること(社会的相当性)の2つの要件を満たさなければなりません。説得の末、社長は即時解雇ができないことに不満を抱えながらも、懲戒処分としての始末書の提出から始まり、解雇に向け段階を踏むことを受入れました。他の社員から聞き取ると、コロナ前よりB夫やE子の反抗的な兆候は見られ、今回の事態を引き起こすことは想像に難くなかったようです。  コロナ禍で、雇用の維持、テレワークや自粛疲れなどの将来への不安からくるストレス発散の矛先を会社や顧客に向かわせない為には、まず、社員を孤立させないことです。単身者に配慮することはもちろん、配偶者のリストラリスクなど生活環境に不安を抱える社員は潜在的に存在しますので、注意深く観察することが必要です。  社長や同僚は、まずは相手を受け入れて話を聞いてあげることだけでも効果は期待できます。社長や同僚が何気なく声をかけ、本人が不満や不安を少しでも口に出すことで、自問自答しながら自己解決できる場合や、他人と話すことで解決策が浮かばなくても、何となしに気が晴れるケースもあります。実際に会話の中で本人の気持ちを落ち着かせることで、問題行動に発展しなかったケースもありました。  一方で会社は、社員が自分勝手に会社に反抗する態度や言動を繰り返す場合、他社員への影響を鑑み、毅然とした態度で懲戒処分などの措置を検討しなくてはならないでしょう。 第一法規『Case&Advice労働保険Navi 2021年4月号』拙著コラムより転載

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