社長の温情で改心した社員

 

 

業種:ガソリンスタンド業  創業:5年  社員:15

 

 

 

中途入社2年目の独身社員A男(50歳)は、トラックやタクシー運送業を経て入社。1年目は前職と異なり夜勤もなくなりはつらつと働いていたのですが、他の社員は20歳代が多いこともありだんだん孤立していきました。

 

そして2年目に入ったころから、会社では頻繁にレジを締めたときの現金残高が数千円ずつ合わなくなりました。旧タイプのレジなので誰がレジを打ったかは履歴が残らず、なぜかA男が出勤した日に限って現金残高が合いません。その前後の棚卸しでは、エンジンオイルやウォッシャー液などの消耗品の在庫も合わなくなりました。

 

 

社長から相談を受け、防犯カメラの映像確認をしたのですが、決定的な証拠がなく、A男本人に確認するにも決め手がありません。その後も確証が得られず1か月が経過しました。社長と相談の結果、A男が素直に事実を認め、心を入れ替えて仕事に臨むなら今回の件はお咎めなしとすることで、本人と面談することとなりました。

 

 

最初は、自分が犯人でないと言い張っていましたが、数度の面談のなかで、社長の生い立ちや父親の事業の失敗など苦労話を聞いているうちに涙ぐみながら事実を認めました。今まで社長とA男との接点がほとんどなかったので、本音で向き合ってくれたことがA男の心を開かせたようです。

 

横領の原因は、A男の母親が認知症を患ったことにより、介護費用や母親が不要なものを繰り返し買い込んでしまったため、カード支払いなどで借金が積もり積もって数百万に上り返済に困ったことでした。

 

 

何度も話し合いを重ね、二度と不正をしないという念書のもと、社長は借入残金を肩代わりしました。毎月数万円ずつ返済させることでA男に更生のチャンスを与えたのです。現在、A男は社長の情に絆され、サービスレベルの向上による固定客の獲得策を提案するなど幹部社員として会社になくてはならない存在となっています。

 

 

 

 

【ポイント】

    入社当初から、社員とコミュニケーションをとり信頼関係づくりができていれば不正を防げた可能性があること

    社長が問題社員とあきらめずにとことん向き合うことで、戦力化できること

    不正を起こさせない「社内ルール」づくりに取り組むきっかけとなったこと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            第一法規「Case&Advice 労働・社会保険Navi」筆者のコラムより転用