社員の流失が止まらない!

 

 

税理士事務所(創業18年、所員20名)での出来事です。

 

 

ある日、所長から憔悴しきった声で次のような電話が入りました。

 

「急に経営方針を転換したために職場が混乱している。3ヵ月間に3割の所員が退職した。決算期に人手不足に陥りこのままでは経営が危ない。解決策の相談にのってくれないか」。

 

 

所長に会うと、詳しい内容を語ってくれました。――今日まで、主に事務手続きを受託して順調に成長してきたが、ITAI技術の進歩により作業的な業務は衰退し将来生き残れるのか不安になった。そこで、コンサルを主体とした高単価な業務への転換を目指した。人事評価の基準もコンサル業務重視に変更した。しかしながら、事務手続きが主業務であった古参所員を中心に急激な経営方針の変化についてこれず、退職者が続いている。このままでは、業務が廻らずクライアントの信頼を裏切ってしまう。何とかこの事態を打開する方法はないだろうか?

 

 

 

成熟期を迎えた組織に起こりがちな騒動です。問題点は、次のとおりです。

 

    所長が独断で作成した経営ビジョンが所員の心に響かず、「うわべだけの言葉」となっていること

 

    所長が良かれと思って作成した「人事評価制度」の評価基準に、所員が納得していないこと

 

    変化を嫌う古参所員が、変革に対応しようとする若手所員を妨害しようとしていること

 

 

 

 そこで、所長面談・所員面談を重ねて、所内の改革を次の方針で取り組みました。

 

    所長と所員とが一緒になって共有できる経営ビジョンを策定する。「経営ビジョン」の所内発表会を行い後戻りできないようにする。

 

    所長も所員も納得できる人事評価制度を、意見を出し合って共同で作る。

 

    日常業務に対する問題点を収集する場として、直接、所長に意見が言える場を設定する。

 

(時間を制限しやすい「ランチミーティング」など)

 

 

当初は、所長も所員も身構え、対峙した状況が続きました。一方で一部の若手所員は、自身が参加する改革にやる気を見せたのですが、古参所員は嫌々参加している状態でした。1ヵ月後、若手所員の一人が改善のきざしの見えない状況にたまりかねて立ち上がりました。「みなさん!今のままでは、事務所が潰れますよ!」事務所が潰れるという言葉で、古参所員は目を覚ましたようです。それほどの危機であることをようやく理解し、徐々に若手所員の視点まで歩み寄ってきました。

 

 

その後も、慣例を変えることに対する小さな衝突は続きました。が、所長の若手所員と一緒に取り組むもうとする姿勢に古参所員も感化され、 ビジョンの達成に不可欠な、

①労働環境の整備、

②行動による現実化、

③能力の引き出し方、

などを前向きに検討しました。半年後、数値目標や具体的な行動をいれた「経営ビジョン」が形になってきました。

 

 

 取り組みのなかで、所内の澱んだ空気は少しずつ変化していきました。会議中に所長と古参所員、若手所員が談笑する場面も見られ、明るい雰囲気になってきたのです。新規顧客の獲得も増えています。

 

 

 5年・10年後に向け成長し変化し続ける体制が整ってきました。

 

 『第一法規「Case&Advice労働・社会保険Navi」h30.5.10号』筆者コラムより引用