社長室(個室)は必要なのか!

 

業績を伸ばしている中小企業を見ると、本社屋の移転などを機に社長の個室を廃止する企業が増えています。

 

 

かつてサラリーマンにとって、社長(役員)になることは、個室・秘書・運転手付き車の3点セットを手に入れることで、ステータスとされていました。近年、日立製作所が副社長6名が一つの部屋で執務を行う「大部屋制」を導入しました。議論を活発化させ部門間を超えて連携し、売上拡大やコストカットを試みました。

 

また、経営再建時の日本航空、東京電力、シャープでも、社長をはじめ役員の個室を撤廃し「大部屋制」を導入、社内の意思疎通や風邪通しを良くし、縦割り組織の弊害をなくすよう努めました。新しい価値をつくり上げるためには個人の力だけではなく役員と社員が自由に意見を交換し個々の持てる力を集結した「集団経営体制」が重要だと考えたのです。   

 

 

マスコミで話題となる中小企業においても、多くの社長は、仕切りのない大部屋にデスクを置き社員に頻繁に声をかけながら仕事を進めています。

 

 

 私は、社長の権限が大きい中小企業では、社内で日々起こる状況を把握し、的確な判断を下すためには、社長個室が不要と考えていました。が、日々の雑談の中で各社の社長や社員から聞き取りを行うと「社長個室を設けないことが適切」とは言いきれないと感じました。

 

 

『社長個室を設けない』メリットは、

 

    個々の社員のメンタル面やフィジカル面をすぐに把握でき、問題が大きくなる前に手を打てる。

 

    職場の雰囲気や社員の何気ない会話から、会社や各社員のおかれている状況を把握しやすい

 

    社員に対し、スピーディーな指示が可能となる。

 

⑷ 社長が独り善がりで決断することを防げる可能性がある。

 

 

『社長個室を設ける』メリットは、

 

    社長個室には豊富な機密情報が保管され、セキュリティー上の必要がある。

 

    機密情報に関わる電話やミーティングを行いやすい。

 

➂ 静かな環境で執務に集中できる。

 

   社員が気を遣わなくてすみ、社長自身もリラックスできる空間を持てる。

 

でした。

 

中には、「社長個室がないと部下が気軽に社長に直談判できる。社長の一言で方針転換され、事前に判断した上司の顔をつぶされることが時々ある」と幹部社員の意見がありました。社長が幹部社員の判断を確認してから社員に伝えるなどの配慮があれば避けられることですが、多忙な中小企業の社長には起こりうる話です。また、「愛煙家は肩身が狭いが、社長個室に行けば堂々と喫煙できる」といった意見もありました。

 

 

私が採用難・人材不足に悩む中小企業でメリットと感じるのは、⑴です。実際に、社長個室は設けずに社長のデスクの近くにタイムカードを設置することで、各社員の健康状態や精神状態を把握してました。表情がすぐれない社員を見れば、すぐに応接室で面談し、風邪をこじらせる前に休養させたり、鬱になる前に休職させたり、転職に悩む社員とは時間をかけて対話するなど気を配りました。結果として、優秀な社員の流失や能力や健康の低下に歯止めをかけられ効果は大きかったと感じます。

 

 

また、⑵も重要です。ある社員の様子がおかしく注意深く観察していると、取引先との商品売買トラブルを一人で抱え込み解決しようとしていることがわかりました。本人に声をかけながら状況を共有し、解決策をたてることで大事に至らず、社員自身も懲戒処分を免れました。

 

 

業績不振のため廃業した社長さんの多くは、個室を設けていました。社長が個室にこもることで「一人3~5役」をこなさなくてはならない中小企業では、コミュニ―ケーション不足から社長と社員との間で誤解や齟齬が生じ歯車がかみ合わなくなってしまったようです。

 

 

 社長個室の是非は、社長の性格や各社の環境などによって異なるものです。一度検討してはいかがでしょうか。

 

『第一法規「Case&Advice労働・社会保険Navi」h30.5.10号』筆者コラムより引用