能力不足社員への対応!

 

保険代理店A社(社員15名・創業10年)での出来事です。

 

 

ある日、社長が問題社員対応について相談したいと来社しました。

 

詳しく話を聞くと、「9カ月前に採用した契約社員B子(1年契約・26歳)だが、仕事ができず他社員からクレームが入っている。出来れば契約の切れる前に自主的に辞めてもらいたい」とのことでした。

 

A社では、人手不足もあり契約社員として採用しても1年以内に正社員として登用していました。また、能力不足や社風に合わない社員が入社しても、居づらくなり自主的に辞めていきました。ところが、今回は改善する気配も自主的に退職する気配も感じられません。社長の先輩Cの紹介のため、B子に契約どおり1年で満了とも伝えづらく、一方で、このまま継続雇用はできません。何とか本人に気づかせ、自らの意思で円満退職してもらいたいと考えていました。

 

 

B子の履歴書を見ると、過去3社に勤務し、いずれも1年経たずに退職していました。社長は採用面談時に、各社の退職理由の聞き取りもそこそこに、やる気と素直さだけで採用を決めました。適性検査などの裏付けもなければ社員への意見聴取もありません。創業以来10年間にわたり、社長の直感だけで採用を続けたにも関わらずトラブルがなかったことが不思議です。しかし、社長も短期間に転職を繰り返していたことは気になっていました。

 

 

その後、B子の勤務状況を社員から聞き取りました。⑴書類を書かせると誤字・脱字が多い、⑵上司や同僚への報告・連絡・相談(報・連・相)がなく社内連携がとれない、⑶事前の段取りが悪く、クライアントへの訪問時に必要最低限の資料が揃っていない、など能力不足が次から次へと明らかになりました。

 

 

また、B子にも事情を説明し聞き取りを行うと、幼少期より要領が悪く、やる気に結果が伴わない状態が続いていました。B子自身もどうしてよいかがわからないと泣き出す始末でした。

 

 

社長や上司と相談の結果、B子に対し「改善プログラム」を組み、「改善指示書」に記名・押印させた後、再教育を試みました。毎週金曜日に到達度のチェック、次週の目標設定と反省会を繰り返し行いました。

 

 

3か月後、B子は改善プログラムに沿って素直に実践しますが、改善の兆しは見られません。残念ながら契約期間の満了を迎え、契約打ち切りを伝えました。

 

 

社長は、同じ過ちをおこさないように、採用のルール化に取り組みました。まずは、⑴全社員の適性検査の実施とA社全体の傾向値の分析、⑵中期計画に向けての必要な人材像の設定、⑶全社員参加型の採用面接、を行いました。

 

 

 半年後、社員の働きぶりにも少しずつ変化が表れました。同僚となる社員の採用に参加できることで、各自が新人を孤立させないように気を配ったり、歓迎会や誕生会を自主的に行うなど和が生まれ、社員同士の笑顔での報告・連絡・相談も増えました。社長も、事前に申告を行えば飲み代の一部を負担するなど社員同士の交流を積極的に支援しています。

 

 

 創業社長特有の「即断即決」は、経営方針のかじ取りにはプラスに作用します。ところが、即断即決による採用は、採用活動に参加できず一方的に新人教育を課される社員にとっては「忙しいのに押し付けられた」と感じマイナスに作用します。

 

 

今後、定型業務のAI化が進み、求める人材像が変化していきます。社長ひとりで採用問題を抱え込まずに、現場を知る社員も積極的に採用に携わることで、採用のミスマッチや新人の孤立化を防ぐことが可能となります。

 

 

『第一法規「Case&Advice労働・社会保険Navi」h30.5.10号』筆者コラムより引用