「中小企業の不人気職種の採用の実態」

 

 

 

ここ数年の採用状況を見ると、採用が困難な職種の代表として、建設作業員(有効求人倍率4.8倍・・・1人の応募者を5社弱で取り合う)や介護・福祉の現場職(有効求人倍率5.1倍・・・1人の応募者を5社強で取り合う)があげられます。

 

 

この職種では応募者そのものが少ないため、多くの場合、問い合わせがあれば、書類選考も大してせず、1次面接を行います。そして、極端に印象が悪くなければ、その場で「内定」を出します。

 

履歴書の中で、前職と前々職の間に1年程度の不明な期間があるなど多少のつじつまが合わない部分があったとしても、あえて目をつぶります。仕事を予定通りに進めるため、1日でも早く人員を補充したいからです。

 

 

建設業A社(創業20年・社員30名)での例です。人材紹介業をはじめ様々な採用ツールを試した社長は、採用自体にコストをかけない主義で、ハローワーク、地元の高校への勧誘訪問、経営者団体での個人的な紹介など地道に採用活動を行いました。

 

結果として、四半期に1名程度の応募者がありますが、東京オリンピックに向け人手はいくらあっても足りません。面接に来た応募者は、社長がよほど不快に感じない限りは即採用します。

 

その日のうちに、労働条件、準備する書類を伝え、作業着や道具まで手配し、入社を待ちます。ところが入社当日、出勤するのは約50%、出勤しない者のうち事前に断りの連絡を入れてくるのは30%程と惨憺たる状態です。

 

 

最近内定を出した、B男(45歳)の履歴書を見ると、大学予備校をあきらめ、日本での職歴はほぼありません。国際貢献を名目に海外で建設作業員を20年にわたって行ってきたのことです。B男は寮の制度や労働条件を再三に渡り確認し納得したにも関わらず、入社当日は現れませんでした。A社が電話しても音信不通でした。

 

 

また、C男(50歳)は、他業界で営業歴30年のベテランですが建設業は未経験でした。が、本人の気概を感じた社長は即採用しました。ところが、入社後様子を見ていると、完全な「指示待ち人間」で、積極的に仕事を吸収しようとする姿勢は全く見られません。たまりかねた社長は、話し合いの末、試用期間の終了と同時に退職させました。

 

 

内定を出してから試用期間を終え、無事、正社員になれる確率は30%未満です。採用担当の社員はたまりません。採用面接の段取りから受け入れ準備まですべてをこなした上、採用以外の業務を複数担当しているため多忙で疲弊しています。

 

 

一方で、同じ建設業でも「事務職」を募集すると、状況は異なります。有効求人倍率は、0.47倍(2人以上の応募者が1社の採用を競っている状態)でA社の欲する以上の人材が応募することもあります。

 

 

D子(40歳)は事務職でA社ホームページを見て入社しました。建設業のため、時には現場作業の応援も頼まれます。「事務職での採用だから現場に出る気などありません」と断られそうですが、「たまに体を動かすと気分転換になる」と会社の置かれている状況を理解し、積極的に行動します。社長や現場での評判もよく貴重な戦力として活躍しています。

 

 

採用の鉄則としては、

⑴経営ビジョンにあった人材像の絞り込み

⑵募集媒体の選定

⑶書類選考

⑷1次面接

⑸適性検査

⑹2次面接

⑺内定通知

⑻健康診断

⑼入社

と進めるべきでしょう。

 

が、中小企業の実態は、1人でも多くの人材を確保するため、⑴、⑸~⑻を飛ばすものです。採用後のトラブルに発展するケースも見られますが、「現場を廻し、お金を廻す」ことが中小企業の生命線なのです。

 

 

実態を考えれば、⑸適性検査や⑹2次面接など時間を要する項目を省くことは仕方がありません。が、問題社員の採用を防止するため、最低限、⑷1次面接は必ず複数人で行い、意見を交換するように勧めています。

 

 

オリンピック景気や少子高齢化により、中小企業では、「事務職」などの人気職種を募集できれば別ですが、「不人気職種」では我慢しながらの採用が続きます。

 

※第一法規「CaseAdvice労働・社会保険Navi」の2018年7月号「コラム」より転載