他人を信じない激昂型社長への対応!

 

 社長が社員を信用しきれないため、社員が思い通りに動かずすぐに切れてしまう、中小企業にありがちなワンマン社長の事例です。社員側は「どうせ信用されていないし、具申しても耳を貸さないし、そこそこ働けばいいや」と士気も上がらず、業績は一向に伸びません。一般企業でも優秀と言われるワンマン上司とその部下の関係においてもおこり得るお話です。

 

 

 ある日、顧問先のA社長より「知人のB社長の会社に、労働基準監督署の立ち入り調査が入り是正勧告を受けている。就業規則などいろいろと手を入れないといけない。多角的にアドバイスしてあげてほしい」との紹介を受けました。

 

 

 B社は、創業20年、社員数20名、トレーニングジムを複数店舗運営しています。B社長(50歳)は、大学をでてサラリーマン人生を早期に切り上げ、数年の修業を経て開業しました。20年前は、「○○トレーニング」などという駅前看板も稀でした。時流に乗り、お客が引きも切らずに詰めかけるほどの盛況ぶりでした。が、最近では競合店が増え、売上高は20年前の半分です。

 

 

仕事ができるワンマンタイプのB社長は、会社業績に自分の思い通りの成果が得られないと社員に「サボり癖がついているから成果が上がらない」と決めつけ、社員のミスには「緊張感が足りず、注意力が散漫だからだ」と片付けています。挙句の果て、レジの清算額が合わないときは「故意に釣銭をごまかしているに違いない」と社員を疑う有り様でした。「信頼関係が第一」を口癖としながら社長と社員との距離は離れていく一方でした。

 

 

 A社長から、この機会にB社長の社員への接する姿勢や考え方を少しでも考え直す機会を作って欲しいと要望を受け、B社長との面談が始まりました。B社長は「コンサルタントは胡散臭いものだ」と疑っており、会話がなかなかかみ合いませんでした。

 

 が、B社長の思いを反映しつつ労働実態に合わせた就業規則に変更するため、社長の生い立ちから企業への思い、将来の理想像と現状のギャップなど少しずつ聞き出しました。当初、こちらからの問いかけや提案に否定的な発言が多くみられました。時間をかけて、B社長自身の思考に沿った提案を織り交ぜながら会話を膨らませていくと、そのうち「そう!そう!そうなんだよ!」と徐々に聞く耳を持つようになりました。

 

 

 特に、コミュニケーションの中で留意したのは次の点です。

 

  社長の意見を否定せず、まずは受け入れること

 

  社長に答えを「教える」姿勢ではなく、ヒントと出しながら誘導し、社長自らが「気づいた」と感じることで腹落ちさせること

 

  B社長が口癖としている「信頼関係が第一」とは、「まず自分が相手を信じてあげること」だと、他社の事例からそれとなく気付かせること

 

 

 その頃、ベテラン社員を中心に退職者が続きました。辞めて行く社員に対し、「今までの恩を仇で返す気か!」といつもは怒りの感情を露にしていた社長でした。が、今回は違いました。自身が変化する必要性を感じはじめたB社長は、冷静になって退職理由に耳を傾ける姿勢を見せました。B社長は「自身の行動が適切だったのか」と意見を求めるようにもなりました。

 

 

 「人は本来変わらないもの」を念頭に置きながら、「自分が変わることでまず相手を受け入れ、相手が受け入れられたと感じることで相手から自分も受け入れられます。そして、初めて『信頼』をベースとした社長と社員の関係性が成り立つ」ことに気づいてもらうためのやりとりを続けています。

 

 

※第一法規「CaseAdvice労働・社会保険Navi」の20188月号「コラム」より転載