「有給休暇(5日間)の付与義務化への中小企業の様々な反応(その①)」


 

 

 

 2019年4月1日より、働き方改革の一環として年次有給休暇の取得促進のための法律が実施されます。労働基準法において有休休暇の付与日数が10日を超える従業員が対象で、有給休暇のうち5日については、使用者が時季指定しなくてはならないことが規定されました。

 

 中小企業に対する経過措置はなく、企業規模を問わず全ての企業が対象です。

 

 

 今回は、法改正に直面する創業30年の建設業A社での対応です。

 

 

 A社ではこれまで、「有給休暇」という言葉を口にすること自体が歓迎されない雰囲気がありました。社長自身が、高度経済成長期に猛烈社員として働いていた経験から、社員の有給休暇の取得には否定的でした。

 

 大多数の社員が「有給休暇=病欠時の賃金補償」との考えで、残った有給休暇は万が一の場合に備えて残してあり、自由に取得できませんでした。

 

 

 これまで何度も社長に対し、最近の採用面接においての応募者の就職企業の選定基準や、応募者のニーズに応えられなければ人材の確保が難しい状況を伝えてきました。

 

 具体的には、「有給休暇の消化率はどれくらいか?」や「実際の月間残業時間の平均値は何時間か、残業手当は実働分支給するのか?」、「管理職のうち女性の占める割合はどれくらいなのか?」など、応募者が納得できる回答を得られなければ、その時点で辞退されてしまいます。しかし、社長はなかなか腹落ちしませんでした。

 

 

 ところが今回、「会社側の有給休暇の付与義務」の話を持ち出したところ、社長から意外な反応がかえってきました。「時代の流れだから仕方がない。むしろ、有給休暇を取りやすい環境をアピールするぐらいでなくては、優秀な人材の採用はおぼつかない。」との前向きな発言に変わっていました。

 

 

 これには、昨今の建設業界の採用難が関係していました。ハローワークや自社ホームページ、有料ネット等に募集広告を出してもほとんど応募がありません。次に、高額な紹介手数料を払って有料人材紹介業からの紹介で採用を始めましたが、ほとんどが1年以内に退職し長続きしませんでした。

 

 短期離職が続く状況に悩んでいた社長は、社長仲間の体験談や人材活用セミナー等に参加したことで、社員に継続的に勤めてもらうには、「長く気持ちよく働ける環境の整備」が最優先であることにやっと気づいたのです。

 

 

 法改正を受け入れる体制が整った社長から、就業規則の変更に伴う社員説明会の開催以外にも、労働条件や環境に関する社員の不満がないかを聞き取る個別面談の実施依頼を受けました。

 

 

 社長は次の手を打ちはじめました。更なる採用難に備えて、女性や高齢者の活用を目指し、女性専用のトイレや更衣室、休憩室の設置、耐熱耐寒仕様の作業着の導入や社員寮を準備するなど改革に着手しました。

 

 

 労働基準法の改正を機に、年5日の有給休暇を付与することさえ困難であろうと思われた社長でさえも、時代の流れを汲み取り、雇用環境の変化に対応しています。今回の対応が応募者や現役社員に及ぼす効果はこれからとなりますが大いに期待できます。