「有給休暇(5日間)の付与義務化への中小企業の様々な反応(その②)」

 

 4月1日より、年次有給休暇の取得促進のための法律が実施されました。これは、働き方改革の一環です。労働基準法において有給休暇の付与日数が10日を超える従業員が対象で、有給休暇のうち5日については、使用者が時季指定しなくてはならないことが規定されました。中小企業にとって問題なのは、企業規模を問わず全ての企業が対象となったことです。

 

 

 今回は、創業40年のA医院での対応事例です。

 

 

 A医院では、看護師・事務員を含む職員を扶養の範囲内で働くパート職員10数名で運営されており、これまで、「有給休暇」を要求する職員はいませんでした。それは、次のような条件と院長や職員同士の円満な関係性が築かれていたからでした。

 

⑴ 各職員が扶養の範囲内で働くことを希望し、収入の上限枠を超えないように職員同士が勤務シフトを融通し合ってきた。

⑵ 院長を中心に残業は月に1時間以内に収まるように効率化に努めてきた。

⑶ 職員旅行・誕生会など様々な月次イベントを医院負担で実施してきた。

 

 

 当初、院長に有給休暇の5日取得の話を持ち掛けたところ、「当医院は最小限の優秀な人材を集め、扶養の範囲内に収まるように交代制シフトで廻してきた。今更、法令順守だからと言って有給休暇の取得のためにシフトに穴を開けられては困る。」と導入には否定的でした。

 

 

 ところが時期を同じくして、配偶者の転勤などによりベテラン職員数名が退職しました。すぐに追加募集をかけましたが、応募が少なく院長の欲する人材は現れませんでした。そこで、院長との協議の結果、「求職者が応募したくなる労働条件を押し出そう」との結論に達しました。

 

 

 応募者が転職の際に重視する項目を上位から検討しました。

 

 〇第1位…仕事内容

 

 〇第2位…年収

 

 〇第3位…労働時間・休日数

 

 〇第4位…やりがい

 

 〇第5位…待遇・福利厚生、      

               (エン・ジャパン株式会社 「転職希望者のホンネ調査2015」)

 

 

 医院で働くパート職員の現状を鑑みると、「仕事内容」や「年収」をアピールすることは相応しくありません。そこで、「労働時間・休日数」「待遇・福利厚生」「やりがい」を打ち出すことにしました。他医院での採用時の成功事例も取り入れて、「どうせ与えなくてはならない有給休暇であれば思い切って『有給休暇の取得率100%』を謳い文句に募集をかけては?」との提案を院長は渋々受け入れました。

 

 

 結果はすぐに出ました。通常の3倍以上のしかも院長の欲する人材が次々応募してきました。

 

 さすがの院長も有給休暇を与えないわけにはいきません。そこで、

①6月上旬に1週間ほど医院を休診する、

②お盆休みと正月休み期間を延長する、

ことでクリニックの休暇を増やし新たに発生する1年分の有給休暇を完全消化させることになりました。その後、職員との定例面談を行うと口を揃えて、「院長に良くして頂いているので、扶養の範囲で働くためには休暇の取得は諦めていた。有給休暇が完全取得できるなんてここで働いてきて良かった。」と感謝しています。

 

 

 院長は、労働基準法の改正を機に、有給休暇を完全消化させる方針を打ち出しただけで、採用がスムーズにいき、職員にも感謝されることに驚いています。

 

 

 今回の対応が、新旧職員のやる気を引き出し、医院の業績向上に繋がることになるのでは、と期待は高まります。

 

 

第一法規「労働保険navi」2019年4月号・拙著「コラム」より引用