クレーマー婚約者への対応

 

 

 製造業A社(創業30年、社員「パートを含む」20名)で起きた出来事です。

 

 

 独身社員B男(40歳)は、ここ数カ月、笑顔が絶えず楽しそうに働いていました。社員研修中のスピーチで、「結婚を前提にシングルマザーの女性と交際中です。近々結婚します。」と、宣言し祝福を受けました。

 

 

 ある日、見知らぬ女性から人事担当者宛に一通のメールが届きました。B男の婚約者から、「結婚すると、家族手当はいくら払われますか?」と問いかける唐突なメールでした。 

 

 A社では、3年前より人事制度改革に着手しており、独身者が多いご時世に扶養家族の有無で給与に格差が生じるのは納得できない、という意見が多数を占めました。そこで、配偶者に対する手当は廃止し、実子の入学や卒業に合わせて定額の「祝金」を支給する制度となっていることもB男に伝えたばかりでした。

 

 

 本来は、B男から婚約者に伝えれば済むことで、このようなメールに直接会社が答える義務はありません。が、B男の結婚を応援するために丁寧に返信しました。制度については、以前にもB男自身が同様の質問をしており婚約者に正しく伝えられていないようでした。聞きたいことや言いたいことがあれば、納得がいくまで直接会社へ申し出るようにくぎを刺しました。

 

 

 数日後、婚約者から再度、「今どきの会社で、扶養手当も出ないのはおかしい。酷い会社だ!」と電話がありました。

 

 

 1ヵ月後、また、婚約者からのメールがありました。「日曜日、急に会社に呼ばれ出勤となった。子供の運動会が台無しになってどうしてくれる!休日出勤手当はどうなっている?」という内容です。

 

 B男本人は納得の上で出勤しており、休日手当も支給済でした。早々にB男本人と面談し、厳重注意の上、再度婚約者に伝えるよう指示しました。大人しいB男は、気が強い婚約者の尻に敷かれ何も言い返せないようでした。

 

 

 A社としては、「未払い残業代」などを要求してくる可能性が高いので、すぐに対策を講じました。過去2年分の全社員の勤務実態と支払済みの残業代との間に差異がないかを調べ、差異がある社員にはすぐに差額を現金で支給しました。

 

 

 数日後、予想通り婚約者から、「残業代の明細がわからない。未払い残業代があるようだから支払ってほしい。場合によっては労働基準監督署に相談することもある。」との脅迫まがいのメールがありました。

 

 

 一連の出来事をB男に問いただすと、婚約者がしつこく給与などお金の話をするのに嫌気がさし、コミュニケーションがとれていませんでした。婚約者は借金を抱えて焦っていたようです。結婚後の収入額について、B男は婚約者から「騙された、訴えてやる」などと脅され悩んでいました。

 

 

 会社は、2人の関係に直接口出しは出来ません。が、婚約者の問題で貴重な戦力が能力を発揮できなかったり、居づらくなり辞めてしまっても大きな損失となります。何度もB男と面談を行い適宜アドバイスを行いました。

 

 

 その後、B男は婚約破棄を切り出し何とか別れられました。

 

 

 この事案では、次の対応をしたことがポイントとなりました。

 

 

    婚約者に対して、常に冷静に真摯な姿勢で対応したこと

 

    リスク(未払い残業代の請求や36協定違反など)を鑑み、先手を打って事実を確認し対処したこと

 

    B男が苦境を脱せるように、親身になって相談にのり解決に導いたこと

 

 

 A社では、今後の労務管理を徹底するために次の対策も講じています。

 

 

    周知のために就業規則(賃金規程)の再説明会を実施

 

    全社員との個別面談の定期実施と、働き方や日常生活上などのマルチ相談窓口の新設

 

 

 人手不足の中小企業にとっては、社員に長く働いてもらい、成長し活躍してもらわなくてはなりません。社員と向き合う丁度良い機会だと感じる出来事でした。

 

 

            CaseAdvice労働保険Navi 201812月号拙著・拙著コラムより転載