人材難でも採用には段階を踏んで!

 

弁理士法人A社(社員15名・創業20年)での出来事です。

 

 

ある日、所長が問題社員の退職対応について相談したいと来社しました。

 

 

詳しく話を聞くと、「3カ月前、性格面で気にかかる部分はあったが、私の意思で採用したパート社員B子(弁理士・有資格者・39歳)だが、1週間無断欠勤をした。

 

欠勤の理由を聞くと『他の職員が有資格者である私を尊敬せず、仕事の仕方に文句をつける。これは所長の職員教育ができていないからで、追い詰められた私はメンタルクリニックに通っている。こんなパワハラ事務所は弁理士会に訴えてやる。』と捲し立てていた」とのこと。

 

B子は、士業の有資格者にありがちな「有資格者=先生=偉い人」という勘違いで、職場に馴染めず他職員から問題視されていました。所長も頭を抱えており速やかに辞めてもらえるように仲裁して欲しいとの依頼でした。

 

 

近年A社では、有資格者が不足しており、資格さえ持っていれば未経験者でも採用せざるを得ませんでした。これまでは、能力不足や社風に合わない社員が入社しても、所長の説得でどうにか辞めていきました。

 

 

ところが、B子は所長から実力不足や資格者としての考え方の過ちを指摘されたことに腹をたてていました。プライドを傷つけられパワハラを受けた、と主張すると見込まれ、円滑な退職とはいきません。

 

 

早速、B子と面談しました。B子は「私は有資格者なので周りから仕事の進め方にとやかく言われる筋合いはないし、所長からパワハラを受けた上に一方的に辞めてくれないかと退職勧奨までされたのは合点が行かない」と主張します。しかし、B子は、有資格であっても実務は未経験で、いくら理論上の知識があっても実務経験豊富な他の職員には太刀打ちできません。

 

 

履歴書を見ると、派遣社員として職を転々とし、資格を取得してからも前職を1カ月で退職するなど長続きしていませんでした。今までの退職理由が知りたく、B子の前職場に問い合わせてみると、個人情報のためはっきりとは答えてくれませんでしたが、やはり同様の問題をおこしていたようです。

 

 

B子と面談を重ねるうちに、無断欠勤の負い目や感情に任せて他の社員を攻撃するなど自分の諸行が退職に際し不利な状況にあることに気付き始めました。ところが、プライドを捨てきれず退職条件を受け入れません。会社が負担している弁理士会費の退職後の本人負担が気に入らない、所長は許せないから絶対交渉窓口に出すな、などと難癖をつけてきました。

 

 

数日後、B子は「退職合意書」の締結の席に着きました。が、この期に及んで「退職合意書」の文言の枝葉末節な部分に拘り文句を言いはじめました。2時間以上をかけて妥協点を探し、最後はB子が根負けし妥結しましたが、なんとも後味の悪い結末でした。

 

 

今回配慮したのは、所長自身が感情的にならないように気を配りながら、所長の考えとB子の要求との妥協点を探ることでした。最終的に所長は、⑴所長自身や職員の精神的負担、⑵対応に係る人件費や時間的ロス、などを鑑み、会費の負担や所長が交渉の席に着かないことなど、B子の退職条件を渋々受け入れました。

 

 

業種を問わず「採用難だから仕方ない。とりあえず採用する。」との考えで、問題社員を押し付けられては他社員はたまったものではありません。特に、所長自身が大きな精神的ダメージを受けるのです。

 

 

採用段階で懸念がある応募者については、

 

    社長の独断で採用するのではなく、社員を巻き込んで面談するなどよく吟味する、

 

    前職へ退職状況や勤務実態の問い合わせを行う(個人情報保護の観点で聞き出せない場合も多いが、雰囲気だけでも感じ取れる場合がある)

 

    性格適性検査で職場への適性を確認する、

 

など手間を惜しまずに採用活動をすることが重要です。

 

今では、所長も考え方を改め採用には慎重を期しています。

 

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 20192月号』拙著・拙著コラムより転載