創業6年・職員数20名の士業事務所(以下、事務所という)での出来事です。
当事務所は、地元の大手事務所の雇われ所長と副所長が共同経営で創業しました。創業時の職員は、副所長を慕う大手事務所の職員から引抜き、また、好立地により開業当初から繁盛していました。
ところが数か月前から、職員が立て続けに退職しました。所長に理由を尋ねても「家族の問題らしいですよ、詳しくは解りませんが。」などの回答ではっきりしませんでした。
ある日、所長より折り入って相談があると連絡が入りました。話を伺うと、「実は、副所長が有資格者C子と不倫をしているようだ。事務所外でのことならまだしも、不倫現場の目撃情報も耳に入る。嫌気のさした職員が退職を願い出るなど、職員の流失が止まらない。対応策で相談にのってほしい。」とのことでした。
所長や職員に詳しく聞き取りを行うと、不倫関係は大手事務所時代から続いており、創業から6年経過したことや業績が順調に推移していることに気が緩み、行動が大胆になっていました。具体的には、事務所の借上げ駐車場での人目もはばからない行動や、他職員の帰宅後、会議室で2人きりで過ごすなど目に余る行為がありました。ついには、ホテルへ入る姿までも目撃されていました。
所長とも相談し、探偵を使って証拠固めを図ったところ、不倫現場を押さえた多数の写真を入手できしました。
後日、副所長を呼びだし証拠の写真を突きつけると、普段は雄弁な副所長もさすがに言葉に詰まり、事実を認めました。後日、副所長とC子は、辞表を提出し事務所を去りました。その後も職員の退職は続き事務所内は暗い雰囲気に包まれていました。
所長は、今回の不倫騒動により、次のようなデメリットが出ることを危惧していました。
① 2トップから1トップとなったことにより、所長への業務負担が集中し対応できるのか?
② 採用難の時代に退職者の穴埋め採用がスムーズにいくのか?
③ 事務所の雰囲気が暗くなり、集客に影響するのでは?
ところが、新たな体制は、結果的にはプラスに作用しました。
⑴ 共同経営の2トップの体制が、1トップとなったことで、意思決定がスムーズになった。
⑵ 求人時の間口を広げるためにフルタイムからパート職員へと切り替えたことで、採用がスムーズになり、人件費も抑制された。
⑶ 所長家族が、積極的に経営に参入(妻が経理業務、娘が受付や人事労務管理業務)することで、経営陣の絆が強くなり、患者や職員への対応がスムーズになった。
⑷ 事務所内の雰囲気が明るくなり、売上は増収傾向になった。
他人同士の共同経営では長年にわたりメリットを享受できる会社は少ないと感じています。一方で、途中で共同経営を解消することで、経営がスムーズにいく例も少ないようです。一般的には、2トップから1トップとなった経営者は、業務負担の増加や孤独感に悩み、社員との意思疎通もままならなず、業績の悪化につながります。
今回のように家族経営に変わり、所長に対するサポート体制が確立できることで、以前より経営体質が強化される例は希です。所長自身の柔軟に変化を受け入れる姿勢や、所長家族が職員に抵抗感なく受け入れられるように細かな気遣いを忘れなかったことなど、家族の経営に対する理解や協力が大きく影響しています。
やっと軌道に乗った家族経営ですが、所長家族の職員への優しさや思いやりに職員が甘えてしまい、過度な要求がなされないように動向に注目しています。
第一法規『Case&Advice労働保険Navi 2019年7月号』拙著・拙著コラムより転載