社員を生かす降格処分!

 

 富裕層向けドッグサロン業A社(社員4名)での出来事です。

 

 

 A社長は1年前にペドッグサロン業に進出し、売上は好調に推移し半年後には単月黒字に達しました。

 

 

 ある日、A社長より、「B男(店長・36歳・トリマー経験18年)のマネジメント力不足が他社員の不満となっている。お客様への影響が心配だ。早急に全社員との面談をおこなって欲しい。」と依頼が入りました。

 

 

 面談を進めていくと、右肩上がりな売上とは裏腹にB男への不満が明らかになりました。

 

 

〇マネジメントを苦手としており、現場作業(トリミング)に逃げる傾向にある。

 

〇富裕層向けの接客マナー、トリミング技術が身についていない。

 

〇本人も「店長」としての能力不足に苦しんいる、現場の一員に戻してあげた方が良いのではないかと他社員は思っている。

 

 

 A社長へ報告すると、『社員の意見を含めトータルで考えると、月30万円のB男の給料も見合わないし、本人との話し合いのうえ、一度降格し、再度チャンスを与えたい。』との要望でした。業界内で「月給30万」は破格の待遇で、創業時の採用難に対する苦肉の策でした。

 

 

 今回は、降格の中でも「役職の引き下げ」であり、一般的にこのような処分については、使用者であるA社長の裁量的判断が尊重されます。

 

 

 ただし、当降格が社会通念上、著しく妥当性を欠くなど、A社長の裁量権の範囲を逸脱する場合には無効とされ注意が必要です。

 

 具体的には、次の基準に照らして判断されます。

 

    A社による業務上・組織上の必要性の有無およびその程度

 

    B男の能力や適性の欠如などB男における帰責性の有無及びその程度

 

    B男の受ける不利益の性質及びその程度

 

 

 A社では、おおむね条件を満たしていました。

 

 

 その後、A社長とB男とで本音で話し合いをしました。A社長は、会社のビジョン、採用の経緯、B店長の貢献がなければオープンなしえなかったことを語りました。更にB男の他人が嫌がる業務を積極的にこなしている部分は大いに評価しました。

 

 一方で、「店長」としての職責が果たされず、富裕層への対応力不足により他社員から反感を買っていることなど現状を伝えました。B男は、うなだれながらも現状を受け入れ降格に従いました。

 

 

後日、B男に聞き取り面談を行うと、「店長という職責に対する期待と責任が重荷だった」と語る表情は穏やかで、吹っ切れた様子でした。また、事前のA社長との打ち合わせ通り、B男のモチベーションを下げない為に、店長に復活するための対応策を協議しました。

 

    店長としてのマネジメント力を強化する          ⇒ 外部研修に参加し「店長」の在り方・行動を学ぶ

 

    富裕層向け接客マナーを身につける           ⇒ A社長よりマンツーマンで指導を受ける

 

    富裕層に満足してもらえるトリミング技術を身につける ⇒ 講師を店舗に招きOJTで指導を受ける

 

 

 また、A社長は上記内容は他社員に説明し、しばらくはB男を見守ってもらえるように説得しました。

 

 

 3カ月後、B男は自分の実力以上の責任と賃金を背負うプレッシャーから解放され、のびのびと働いていました。店長復活への意気込みを感じさせ、常連客の多くには「お店の雰囲気が柔らかくなったね」と評価されています。

 

 

 マネジメント力の強化、マナーやトリミング技術の向上、など時間を要する課題が残りますが、B男が課題を克服し、店長に返り咲くことを社長も社員も期待しています。

 

 

     第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 20198月号』拙著・拙著コラムより転載