不満をぶちまける社員から始まった社内ルール改革

 

 製造業A社(創業30年、社員50名)で、共同就職面談会での出来事から社内ルール改革に至った事例です。

 

 

 面談会には、3名(社長・若手社員・中堅社員「C子」)で臨みました。突然C子が、社長が不在なのを見計らってなのか、A社ブースに挨拶に来た主催者に対し、「こんな会社、給料は安いし、残業は多いし、私なら絶対転職しない。だれにも勧めたくない!」と大声で不満をぶちまけました。

 

 主催者をはじめ、他の参加企業も何が起こったのかわかりません。A社は業務分担や残業を減らすために増員しようと、高額な出店費を支払って参加しているにもかかわらず、なぜこのような事態になったのでしょう。

 

 

 C子も、さすがに自分の不適切な言動に気づいた様子で、その後は静かにしていましたが、A社ブースはぎこちない雰囲気になりました。A社ブースには8名の参加者が訪れ面談を行い、会社見学・2次面接を勧めました。しかし、参加者も面談会当日の雰囲気を悟ったのか、その後の連絡はありませんでした。

 

 

 後日、C子の暴言を知った社長は、状況把握のために面談を行いました。C子は社長を前にすると言いたいことも言えません。不満要因である給与や残業時間の話をふっても無難な日常会話程度で不満げなことは何も言いませんでした。因みに、A社は、給与や残業時間など、同業他社と比較しても遜色はありません。

 

 

 他社員にC子の日常生活を含めた勤務状態を聞き取ると、「半年前に離婚し、高校生と中学生の一男一女を引き取っている。元夫から養育費が支払われないことや、多感な時期の子育てに翻弄されており、生活に疲弊した様子である。不満のはけ口を会社に向けたのでは?」とのことでした。

 

 

 よい機会なので社長と相談し、若手・中堅社員を対象に労働環境の不満を把握するため、アンケート調査と面談を実施しました。

 

 

「若手社員の意見と社長の所感や解決策」

 

    社員の自己評価が低く、社長の評価との間に格差はない ⇒ 労使ともに現実を把握しているので問題なし

 

    社員は十分な給与に納得しているが、資格取得などで昇給を目指したいと考えている ⇒ 資格手当の範囲を広げ向上心を育

 

    部門ごとに「残業時間のカウント方法など」が異なり不公平である ⇒ 時間管理などの社内ルールを分り易く可視化する

 

 

「中堅社員の意見と社長の所感や解決策」

 

    社員の自己評価が高く、社長評価との格差が大きい ⇒ 大手求人給与を基に実力以上の昇給を望んでいる

 

    残業が多い ⇒ 業務量は適正か?、段取りの悪さが起因していないか?、の検証が必要である

 

    若手社員に夢を与えて欲しい ⇒ 中長期事業計画と社員への思いを言語化し、社員に発表する

 

 

 若手社員は、将来を見据えて行動しようとする成長意欲を感じるが、中堅社員は、自らが変化することを避けて会社へ依存していることが顕著に現れました。そこで、社長との協議の上、つぎの対策をとりました。

 

 

〇社長が頭の中で描いている中長期事業計画や社員への思いを、言語化し社員と共有する

 

〇定期面談を、全社員と社長、進行役の3者で定期実施し、現場の声を反映できるか検証し、不満の解消を図る

 

〇A社の給与水準や残業時間の妥当性を同業他社の数値で示し、給与体系と評価基準の可視化を行う

 

〇残業時間の実態を検証をしたうえで、無駄な居残り残業があれば退社を促す制度(一斉消灯など)を導入する

 

 

 新たな社内ルールや賃金制度の導入は、向上心の高い若手社員のやる気を引き出し、中堅社員のネガティブ思考を改善すべく、旧ルールと実態とのギャップを埋め、極力、労使が納得しやすいルールとしました。

 

 

 そもそも社内ルールは、運用する者(会社と社員の双方)の考え方と運用の仕方次第で、相互理解に繋がることもあれば、争いごとに発展するなど、プラスにもマイナスにも作用します。 労使間の良好な関係な維持するには、ルールの運用上で疑義が生じた場合には、直に労使間で前向きに協議することがポイントとなります。

 

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 20199月号』拙著・拙著コラムより転載