内定取り消しは解雇と同様の規制がかかります

 

 

 

新型コロナウィルス感染症の拡大より非常事態が全国に宣言されました。

 

 

 飲食業などのサービス業を中心に、収益が大幅に減少しています。頼みの雇用調整助成金の支給も遅れ、雇用の維持が厳しい状況に陥っています。

 

 

 また、東京労働局によると、新型コロナウィルス感染症の影響による新卒学生の内定取り消し数は、427日現在判明しているものだけで、全国33社で合わせて92人に及びます。

 

 

 首都圏にある製造業A社(社員20名・創業25年)での出来事です。

 

 

 A社は3月までは売り上げも安定していました。そこで、3月下旬に欠員補填のため、中途採用者B子(26歳)を採用決定し、内定通知書を発送しました。ところが、翌日、大口の取引先C社から、突然、受注停止の通知を受けました。

 

 

 驚いたA社長は、C社に掛け合い受注停止の撤回を要求しましたが、詳しく話してもらえず埒(らち)があきません。会社に戻ったA社長は、先行きの不安から、取り急ぎ内定を取り消そうとB子に連絡しました。内定通知書はB子宅には配達されていましたが開封されていませんでした。A社長は、電話で状況を説明し、B子に面談を申し出ました。

 

 

 A社の誠意として、

⑴社長自ら状況の説明に出向くこと、

⑵転職活動の支援策として給与1カ月分を支給すること、

⑶取引先の中で人手不足の業種を紹介することにしました。

 

  A社長は、社内会議でB子との合意書面に「景気が回復したら優先的に採用する」旨を明記したいと発言しましたが、確約できない約束は後々のトラブルに発展するため記載しませんでした。

 

 

 本来であれば、内定取り消しの回避努力として、A社はB子を採用のうえ雇用調整助成金の活用や行政機関や金融機関が出す雇用維持支援策の利用をすべきところです。一般的に内定通知書の交付後、労働契約が成立します。その後の事業主による一方的な契約の解消は解雇にあたり、内定取り消しにも解雇の規制がかかります。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない採用内定の取り消しは無効となります。

 

 

 新型コロナウィルス感染症の拡大による経営状況の悪化を理由とする場合、採用内定者に落ち度はなく、整理解雇の場合に準じた取扱いが求められます。

 

⑴ 人員整理の必要性    ・・・会社の経営状況から内定取り消しをしなければならない必要性があること

 

⑵ 解雇回避努力義務の履行 ・・・内定取り消しを回避する努力を行ったこと

 

⑶ 被解雇者選定の合理性  ・・・内定取り消し対象者の選定基準及び選定が合理的であること

 

⑷ 解雇手続きの妥当性   ・・・対象者に対し誠意をもって対応(説明や協議)したこと

 

 

 この事例では、B子への素早い状況説明や謝罪をし、就職活動の支援金支給など誠意ある対応をしたことが、B子の気持ちを動かしました。B子は冷静に考えてくれたようで、内定を辞退し合意書に署名しました。今回は、A社の誠意やスピードある対応と交渉相手に恵まれ揉めませんでしたが、一般的にはトラブルに発展するケースです。

 

 新型コロナウィルス感染症の収束が見えない中、有効求人倍率は下がっており、採用においては企業側が有利になりつつあります。しかし、採用には必ずリスクが伴います。採用計画は十分に検討しても、不測の事態がおこることがあります。応募者の気持ちを汲んだ対応が求められます。

 

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 20205月号』拙著・拙著コラムより転載