「コロナを機会に労使関係を変化させる」

 新型コロナウィルス感染症による非常事態宣言も解除され、経済活動は再開に向かっています。

 

しかし、経済活動の制限による影響は大きく、東京商工リサーチの発表では、新型コロナウィルス関連で経営破綻した企業は6月に入り合計で200社を超え、従業員被害者数の合計は約8,000人に達します。

 

リーマンショックを超える不況がくると予測され、従業員は雇用や将来の生活に不安を抱えています。そこで、不安感を少しでも取り除きモチベーション維持しながら、労使関係の改善を図ろうとする会社も現れています。

 

 首都圏にある、清掃業A社(従業員20名、創業20年)のたたき上げの社長は、本来は優しく思いやりのある性格ですが、社員とのコミュニケーションが苦手です。相手の意見を最後まで聞けずについさえ切り、自論ばかりを展開してしまいます。

 

 社員は、思いや考えを聞き入れない社長に不満を抱いていました。A社では、新型コロナウィルス感染症が拡散した3月に、2年先までの大口契約を締結しており、当面、経営への悪影響はありません。そこで、社員の暗い気持ちや不安感を和らげ、この機会を労使関係の改善に生かそうと考えました。

 

 A社オリジナルの「給付金」を支給するのと同時に、今までは踏み切れなかった社長から直接社員へ向けたメッセージを発信することにしました。これまでも幹部社員からは、社員へメッセージを発信する提案はありましたが、社長自身に照れもあり、気持ちを素直に伝えられる自信もなく行動に移せませんでした。

 

⑴ 3月末。政府の定額給付金の支給が滞る中、会社から社員一人につき5万円の現金支給に「家族を大切に!」との初めてのメッセージを添付しました。 

⑵ 4月末。定額給付金の支給の遅れを鑑み、更に会社から一人につき5万円の現金支給と同時に、添付の直筆メッセージで「雇用は必ず守る!」と宣言しました。 

⑶ 5月末。軒並み減額すると想定される夏季賞与を、昨年の実績に15%(平均5万円程度)を上乗せして現金支給すると同時に、メッセージには、普段は口にしない社員への「感謝の気持ち」を添えました。

 

 しばらくすると、労使それぞれの行動に少しずつ変化が表れました。具体的には、

①来客時、社員が率先して挨拶を行うなど社外の人にも気配りができるようになった、

②社長自身が社員に歩み寄って話しかけるようになった、

③社員に笑顔が見られる、

など事務所の雰囲気が変わりつつあります。

 

 毎月1回、経済的援助と社長メッセージの発信を継続することで、社員には社長の会社や社員に対する思いが伝わり、社長が変わる姿を見せることで社員も態度を変え、関係に良い兆しが見られます。新型コロナウィルス感染症に関する報道は、労使双方にとって辛いニュースが目立ちます。しかし、A社のように労使関係を振り返り修復する機会とするなど、課題を克服するきっかけづくりに活用してはいかがでしょうか。

 

       第一法規『Case&Advice労働保険Navi 2020年6月号』拙著・拙著コラムより転載