「コロナを機に休眠する会社」

 新型コロナウィルス感染症による非常事態宣言も解除され1カ月以上を経過しましたが、経済活動の自粛や制限による影響は大きく、コロナ関連で倒産した企業は合計で300社(帝国データバンク発表、77日現在)を超えています。

 

 上位は順に「飲食店」「ホテル・旅館」「アパレル・雑貨小売店」です。

 

 首都圏にある和装販売業A社(契約社員2名、創業25年)での出来事です。A社は、ここ数年、売上高が1/2に減少していたところ、新型コロナウィルス感染症の影響を受けて5月からの売上は0円まで落ち込んでいます。

 

既に毎年400万円程度の赤字を計上し累積赤字は3,000万円に達し、今後も赤字幅の拡大は避けられません。

 

 社長の親族は、A社の決算数値や業界を取り巻く環境を鑑み、「傷口をこれ以上広げないうちに会社を清算させたいので社長を説得し廃業もしくは休眠をさせる協力をしてほしい」と依頼してきました。親族間では、棚卸資産の処分の後、なお残る借入残金を肩代わりし清算することで合意しており、会社を休眠させれば、社長の自己破産は免れます。

 

 70歳になる社長自身は、バブル崩壊、リーマンショック、大震災等の困難を乗り越えてきた経験から現実に向き合えず累積赤字は十分に回収できるものと妄信し、事業を継続する考えです。しかし、A社を取り巻く環境は大きく変わっています。

 

 上質な顧客層は高齢化し、若年層の取り込みにも苦戦し、マーケット自体は縮小傾向です。販売会の開催パートナーである百貨店などの小売店頼みでは生き残りは困難です。高齢の経営者ではIT技術を駆使した販売手法にも対応できずに行き詰っています。

 

 一般的に、創業者であるオーナー社長は、周囲が理屈で説明し適切な方向に導こうとしても聞き入れません。自分で考えて納得した結論以外には従わないのです。そこで、特にこだわりの強い社長に対しては経営状況を理論的に説明し休眠を納得させるのではなく、

⑴社長を信頼する家族や仕事仲間を失望させないことが残された人生での務めであると、感情に訴えること、

和装文化の知識や経験を後世に伝える講師やアドバイザーとして活動の場をつくり、引退後の「生きがい」を見出だせるように親族も応援すること、を提案しました。

 

 最初は、腹落ちしなかった社長ですが、孫や仲間の顔を思い浮かべながら、肩書の入った名刺やホームページのデザイン提案を受けると心が傾きはじめました。社長本人も事業の継続が困難であることは薄々感じていましたが、一人では打開策も見つけられませんでした。他人に迷惑をかけたくない気持ちも強く、事業継続に拘わっていました。

 

 また、契約社員の2名は60歳を超えており、雇用調整助成金での賃金の補填と、中小企業退職金共済制度からの退職金の支給により退職となりました。借入金は全額返済し、休眠の手続きに移っています。

 

 

 新型コロナウィルス感染症の収束が見えない中、経営危機を迎える会社は後を絶ちません。A社のように親族が一体となり支援し、円満に会社を休眠できるケースは希でしょう。しかし、周囲を巻き込んで知恵を絞ることで打開策を探ることは無駄なことではありません。持続化給付金、家賃支援給付金以外にも、99.7%を占める中小企業を救う施策を打ち続けてくれることを期待しています。

 

   第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 20207月号』拙著・拙著コラムより転載