多くの企業では、新型コロナウィルス感染症の拡大防止策としてテレワーク・在宅勤務の導入が始まっています。
コロナを機に通勤手当の取扱いが見直される中で、次のような問い合わせが増えています。「従業員の中には申請した通勤経路と実態とがあっていないようだが、たまたま別ルートで通勤した可能性もあり問い詰めづらい。急に辞められても困る。どうしたらよいものか?」
A医院では、患者さんが通院を自粛することにより売り上げが減少、従業員にとっては月給に残業代がつかなくなり、賞与も大幅に減少しました。従業員の一人から、家賃の支払いが厳しく転居すると申し出があり、通勤手当の変更届を見た院長は驚きました。どう考えても遠回りとなるバス利用で申請されており、経路検索アプリで調べても明らかに経済的かつ合理的ではありませんでした。
建設業B社では、賃金制度の改定を行うため、従業員の通勤経路を調べました。ある従業員は、申請した経路の方が乗換接続を含め時間的にも肉体的にも楽だと主張しましたが、経路検索アプリや他の従業員への証言では経済的かつ合理的ではありませんでした。
IT業C社には、残業も多く終電近くの帰宅時間帯は接続が悪く、運が悪いと終電に乗り損ねるとの理由で迂回申請していましたが事実ではなく、通常の2倍の通勤手当となっていた従業員がいました。
その他にも、従業員が電車通勤を装い、自宅から職場近くの駅前駐輪場まで自転車を利用し何食わぬ顔で出社する例や、バス通勤を申請したにもかかわらず、隠れて自転車で通勤中に老人をはね、多額の損害賠償請求を受けて退職に至った者もいます。
同業のコンサルタントや経営者の話では、通勤手当サギは少なくとも10%程度はあるだろうとの話です。
多くのケースでは、勤務中の態度や成績そのものには問題はありませんでした。しかし、該当する従業員の多くは、入社半年以上を経過し戦力となった後に発覚し退職しています。人材紹介会社を通じ100万円超の紹介手数料を支払い採用する場合は、このような不正のため辞められてはコストが無駄となってしまいます。また、欠員補充が追い付かずに、採用担当者だけではなく、欠員分の職務を補う従業員が疲弊することも問題です。
減った残業代などを補うため、と深く考えず行われる通勤手当サギについては、規則を厳しくし、不正を監視すればなくなるものでもありません。労使間の信頼関係が揺らぎ、業務に支障をきたしては本末転倒です。会社として、従業員に「これぐらいならよいだろう」という気持ちの隙を与えないルールづくりが必要です。
具体的には、①会社側が入社時点や経路の変更時点で、通勤経路を事前に経路検索アプリで調べ選択肢を提示すること、②支給の手間は要しますが定期券を現物支給に切り替えること、③初回購入に限り通勤定期のコピーの提出を求めること、などが考えられます。
いずれにしても、⑴不正を行う従業員を責めるより、させない工夫をする。⑵労使共に疑念を抱かなくて済むルールづくりを行う、など、自社の労使関係の状況を鑑み対策を検討してはいかがでしょうか。
第一法規『Case&Advice労働保険Navi 2020年10月号』拙著・拙著コラムより転載