「依頼が増加する社員面談とその対応」

 

 中小企業から社員面談の依頼を受けることが多くなりました。

 

 

 各社の社長は、昨今の採用難や離職率の高さから社員の本音を把握したいが、いきなり社長自身が対話をしても、本音を引出すのは難しいと感じています。

 

 一般的に社員は、第三者が聞き役になる方が社長が面談するより本音を漏らしやすいのも事実です。

 

 

 要望としては、従業員はこの会社に満足しているのか、会社への不満があるなら原因はどこにあるのか、辞めて転職しようと考えていないのかー、などです。特に社長が面談に対し過度な期待をしないように注意し、次のように伝えています。

 

 

    社員と面談者の間に信頼関係が築けていない段階では、本音は語られにくいこと

 

    次回以降も本音を引出すために、聞き取った内容で本人にマイナスに働く事項は、社長へ伝えない場合があること

 

    社員から出た要望に対して、社長が改善できる事項については期日を含めて大まかに対応策を伝えること、改善できない事項には理由を告げるなど、必ず対応方針を示し放置しないこと

 

 

 5年前であれば「会社に悪く思われると、昇給や出世に響く」「何とか穏便に済ませよう」などと差し障りがない対応で社員の本音が出にくい状況でした。が、今は以前よりは本音が出やすくなっています。

 

  それは転職市場が活況で、社員は「嫌になったら辞めてしまえ」「どこでも転職すればいいや」と、ひとつの会社に執着していないからです。

 

 

 面談中においても、「転職なんて思ってもいませんが」と口にするなど、一見前向きに働く気持ちを伝えるつもりで発言しますが、明らかに転職を意識し、不平・不満が解消されないなら辞めてやるくらいの勢いを感じます。

 

 

 逆に言えば、会社にとっては、不平・不満を解消し従業員満足度を上げることで、雇用を維持する絶好の機会となります。

 

 

 数社の面談での要望は大きく3つに分かれました。

 

 

    残業代の計算や支払いに納得がいかない(15分未満の切捨てルールは適正なのか、固定残業手当の時間管理は適正に行われているのか、など)

 

    賃金システムを見える化してほしい(就業規則の賃金規程がわかりずらく、そもそも実態と一致していない)

 

    資格試験でも援助(専門学校へ通った場合の授業料の補助等)が欲しい。(受験日の給与は支給し、受験料や交通費まで会社が負担しているのだが、)

 

 

 内容を見ると、

  ①②は、会社ルールの説明不足や就業規則の不備など、会社側に責任がある場合が多くみられます。特に②は、未だに社長が直感で昇給や賞与を決めるなど、既存の賃金規程と乖離しています。直ちに社員への説明を行い問題点があれば改善すべきでしょう。

 

  ③は、会社にとって、社員の自己啓発には良い資格であっても、辞めてしまえば会社にメリットは残りません。社員個人の将来への自己投資であって、会社負担とは別問題かと思います。

 

 

 マスコミ報道やネット情報の影響か、「辞められては困る」「労働基準監督署に駆け込まれては困る」と考え、社員の要求に過度に反応するのはいかがなものでしょうか。

 

  まずは、社長自身が社員と向き合いお互いが納得するまで、徹底的に話し合う姿勢が重要です。また、社員の要望に対し、「出来ること、出来ないこと」を毅然とした態度で示すことも大切です。

 

 

  多くの中小企業の社長も社員も、互いの直接対話を苦手と感じています。一方で、社員側は本気で自分と向き合ってほしいとも思っています。第三者に頼りきらずに、まずは社長から社員へ歩み寄ってはいかがでしょうか。

 

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 20196月号』拙著・拙著コラムより転載