不安から生じるトラブル

 緊急事態宣言が解除されワクチンの接種も始まりましたが、第4波の到来や変異株の拡散などコロナ収束への先行きは不透明です。社員は、在宅リモートワークによる家族の関わり方の変化、長引く自粛疲れ、企業の人員削減など、将来への不安を抱えています。不安からくるイライラする気持ちを抑えきれずに、会社や顧客をはけ口とした結果、トラブルになるケースが見られます。

 

 A社は、創業10年、社員10名、調剤薬局業です。

男性社員B夫(38歳)は、勤続15年の薬剤師で普段は大人しいタイプです。しかしある日、薬局内で高齢男性患者C男の前でキレました。C男は、B夫の指示を取り違え処方箋を異なるボックスに提出していたため、なかなか受付に呼ばれません。不審に思いB夫に「ずいぶん時間が経つのですが、まだでしょうか?」と尋ねたところ、「さっき、ここじゃねえって言ったじゃん!チッ!」と舌打ちをされた上に処方箋を投げられました。コロナ感染対策のため、マスクやアクリル板越しであったため、B夫の指示が聞き取れなかったのです。非礼なB夫の態度に怒ったC男が責任者の謝罪を求めたため、社長が出ていきましたが収まらず、薬剤師会や役所にまで連絡が行き大騒ぎとなりました。事情を聴くと、一人暮らしのB夫は、コロナ禍で友人との接触も断たれ孤独感や不安から顧客に怒りをぶつけてしまったとのことでした。

 

 D社は、創業30年、社員20名、エステサロンです。

 女性パート社員E子(50歳)は、ある日突然、顧客の前で、「消毒に今時アルコールでなく次亜塩素酸を使うのですか?」と大声で不満をぶつけました。当時、アルコールは入手困難であったため、次亜塩素酸水を状況に応じて併用していました。社長は既に書面と口頭でスタッフに周知していましたが、E子は理解しておらず、再度説明を行いその場は収まりました。数日後、「社長、この職場では自分の考えも主張できないのですか?私は、辞めたほうがいいですか、もう疲れました」と、顧客の前で消毒対策に不満を訴えたため、職場は不穏な空気に包まれました。

 

 後日のE子の話では、夫が在宅勤務で長時間家にいることによるストレスや、夫に早期退職の話が上がっている中で悩ましい住宅ローンの残債や子供の学費問題、更年期から来る不安などが重なっていたとのこと。職場での八つ当たりに繋がっていました。

 

 いずれのケースでも、今までにない社員の反抗に面食らい怒りに震えた社長は、解雇したいと相談してきました。解雇が有効と認められるためには、解雇に客観的に合理的な理由があること(客観的合理性)、及び解雇が社会通念上相当であること(社会的相当性)の2つの要件を満たさなければなりません。説得の末、社長は即時解雇ができないことに不満を抱えながらも、懲戒処分としての始末書の提出から始まり、解雇に向け段階を踏むことを受入れました。他の社員から聞き取ると、コロナ前よりB夫やE子の反抗的な兆候は見られ、今回の事態を引き起こすことは想像に難くなかったようです。

 

 コロナ禍で、雇用の維持、テレワークや自粛疲れなどの将来への不安からくるストレス発散の矛先を会社や顧客に向かわせない為には、まず、社員を孤立させないことです。単身者に配慮することはもちろん、配偶者のリストラリスクなど生活環境に不安を抱える社員は潜在的に存在しますので、注意深く観察することが必要です。

 

 社長や同僚は、まずは相手を受け入れて話を聞いてあげることだけでも効果は期待できます。社長や同僚が何気なく声をかけ、本人が不満や不安を少しでも口に出すことで、自問自答しながら自己解決できる場合や、他人と話すことで解決策が浮かばなくても、何となしに気が晴れるケースもあります。実際に会話の中で本人の気持ちを落ち着かせることで、問題行動に発展しなかったケースもありました。

 

 

 一方で会社は、社員が自分勝手に会社に反抗する態度や言動を繰り返す場合、他社員への影響を鑑み、毅然とした態度で懲戒処分などの措置を検討しなくてはならないでしょう。

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 20214月号』拙著コラムより転載