「ワクチン接種を望まない社員への対応」

 新型コロナの第5波では非常事態宣言の延長も検討され、飲食店などの接客業だけではなく、対面を基本とする医療業務にも支障をきたしています。

 

 首都圏にあるAクリニック(創業20年・職員20名)の院長から相談がありました。スタッフ数名が副反応を恐れワクチン接種を拒んでいる。患者さんからは、『A先生のクリニックは、みなさん接種済みですよね』と念を押されると、『そうですよ』と答えざるを得ない。また、スタッフ間でも未接種者とは働きたくないとクレームが出ている。

 

 未接種スタッフに接種させる方法はないものか?というものでした。

 

 Aクリニックでは、安全・安心な環境で患者さんを受け入れたいと全スタッフの接種を考えていました。職業柄、副反応のリスクを負ってでも避けられないと考え接種したスタッフの中には、未接種者と同じ職場にいることに違和感を感じている人もいます。医療機関は、ワクチン接種を望まないスタッフに対してどのように対応するべきかという難しい問題を抱えています。

 

 厚生労働省のホームページでは、

 「新型コロナワクチンについては、国内外の数万人のデータから、発症予防効果などワクチン接種のメリットが、副反応などのデメリットよりも大きいことを確認して、皆さまに接種をお勧めしています。

 しかしながら、接種は強制ではなく、あくまでご本人の意思に基づき接種を受けていただくものです。接種を望まない方に接種を強制することはありません。

 また、受ける方の同意なく、接種が行われることはありません。」「職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていない人に差別的な扱いをすることのないよう、皆さまにお願いしています。仮にお勤めの会社等で接種を求められても、ご本人が望まない場合には、接種しないことを選択することができます。」と記しています。

 

 本人の意思に基づいて行われ、法的義務がないワクチン接種を強制することは、ワクチンハラスメントなどの労働問題に発展する可能性があります。また、ワクチン接種を望まない社員への対応として、人と接する必要のない職種への「配置転換」を行う会社がありますが、人材育成のための定期的な人事異動とは異なり、不利益な取り扱いと見做される可能性があります。

 

 そこで、接種を望まないスタッフへは代替措置の提示が必要となるでしょう。

 Aクリニックでは、次の2点で対応することになりました。

⑴ワクチン接種を希望しないスタッフに対し、PCR検査を定期的に実施する。

 クリニックの費用負担は増しますが、PCR検査であれば副反応もなく、接種を望まないスタッフが受け

 入れやすく、同僚や患者さんへの理解も得られるでしょう。

⑵ワクチン接種後、数日間の有給休暇制度を設けて利用を促進する。

 接種を望まないスタッフが、他スタッフの休暇取得を目の当たりにすると、休みがもらえるなら、と接

 種を受け入れる可能性があります。

 

 接種を望まない社員への対応は人との接触頻度など職種によって異なります。感染力の強い変異株も次々と発見され、コロナ対策は刻々と変化しています。今後、ワクチンハラスメントを避け、また発生しない柔軟な環境づくりを工夫することが求められるでしょう。

 

 

 第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 2021年9月号』拙著コラムより転載