A社(創業25年、電気工事業、社員30名)の社長より、2カ月前に受け入れた出向社員B男の対応について相談がありました。B男(57歳・年収650万円)は、取引先の信用金庫から、A社長の相談相手、かつ業界特有の営業活動に従事できる人材として受け入れました。
しかし、本人からは覇気が感じられず、A社長は今後戦力化できるのか疑念を抱いていました。
A社は、B男の受け入れに際し、優秀な社員をマンツーマンで配置し、すぐに馴染めるようにと労働環境の整備も怠りませんでした。コロナが収束しない厳しい経営環境下で戦力化できず、出向元から有利な融資条件を引き出せるなど効果が期待できないのであれば、早々に解約すべき事案だと考えていました。
後日、B男との面談を行いました。最初は警戒していたB男でしたが、世間話を交えて対話を進めていくと、徐々に本音を語りはじめました。自分のような役職定年(55歳)者は冷遇され、運よく出向できても出向先でなじめない厳しい現実に遭遇しているなど、発言は出向元への恨み節が中心となりました。出向先になじみ、役立とうという前向きな姿勢は感じられませんでした。
掘り下げて話を聞くと、出向元の問題点が明らかになりました。
① 出向者に対し出向の目的と役割を十分に伝えていない
・・・出向元は、B男に、直前に出向先を伝えただけで、求められる人材像やスキルなどの詳細説明を行わなかったため、B男は出向に対し不信感を抱いたままである。
② A社での労働条件について説明がなされていない
・・・出向元は、賃金や労働時間などの労働条件や出向期間、どちらの就業規則に従うかなどの条件面を、B男に書面で伝えていない。処遇がはっきりしないため、B男は業務に身が入っていない。
一方で、B男には、次のような問題点があります。
① A社で期待される役割を理解していない
・・・B男は出向元から、具体的な職務内容や期待される役割の説明がなかったから不信感を持ったと主張する。しかし、出向は本人にとって大きな問題であり、自発的に確認する必要があった。
② 役割に沿って職責を果たすべく努力を怠っている
・・・B男はA社に対し、最初から文化が違い馴染めないと諦め努力を怠っている。出向先では、ベテランであればあるほど結果が求められるが、すぐに結果が出せないのであればプロセスだけでも評価されるように真摯な姿勢で取り組ことが大切である。
様々な出向者を見ると、出向後に戦力化できるか否かは、過去を捨てゼロベースでスタートする覚悟ができているかどうかによります。出向先では、特に中高年の出向者の受け入れに際し、負のイメージを抱いています。出向者は、プライドを捨て、新入社員の心持で職務遂行に取り組む姿勢が重要です。開き直りや虚勢で乗り切ろうとしても誤魔化しは利きません。そして、出向元に戻された結果、残念ながら退職勧奨を受けて自主退職するケースも少なくありません。
出向に関しては、必要な業務スキルや労働条件など、出向元、出向者、出向先との3者間で納得するまで話し合った上でスタートを切ることで、各者の目的達成につながることでしょう。