「リモートワークとメンタルヘルスの現状②」

 今回は、コロナ禍で社員の健全なメンタルを維持するための、会社の対応策を考えます。

 

 地方から異動した社員A子(30歳)の事例です。本社転勤のため一人暮らしを始め、テレワーク(在宅勤務)となりました。上司や先輩社員とは週1回のオンラインミーティングかメールでやり取りを行います。

 

 わからないことが発生しても「こんなこと聞いてもよいのだろうか」などと考えてしまい気軽に尋ねることが出来ず、意思の疎通が図れません。慣れない環境を察してかばってくれた上司や先輩でしたが、数か月経つと指導されることもなくなり、業務は次第に滞り始めました。

 

 注意・指導を受ける回数も増え、A子はこの仕事に向いていないのではないかと思い悩むようになりました。行動制限が解除されても、近隣に同僚や友人などの雑談相手が居るわけでもなく、うつうつとした日々を送っていました。食欲や気力も低下、不眠が続き、勤務日のパソコンの出勤ボタンへのタッチができなかったり、上司からのメールへの返信が遅れるなど勤務そのものに支障が出始め、ある朝から起き上がることも辛くなりました。その後、上司の指示でメンタルクリニックへ通うと「うつ病」と診断され、休職し静養中です。

 

会社として在宅勤務での社員のうつを防ぐためには、次の対策が考えられます。

➀業務の目的を明らかにし社員の合意を得る

社員に仕事を割り当てる前にその業務の目的を明らかにし、理解されるように対話を図ります。目的が腹落ちすれば、業務に前向きになり、上司への質問も的確になります。

②役割や仕事量を適切に配分する

社員を追い込む原因の一つは、上司が社員の働きぶりを見届ける機会が減ったことで、役割や仕事量に偏りが生じていることに気付かないことです。定期面談を通じて、上司が社員の特性や抱える負荷を把握し、仕事量が適当となるように配分します。各社員に余裕を持たせ、主体的に取り組ませることで、責任感ややりがいを感じることでしょう。

③人事評価制度をプロセス重視から結果重視へと制度変更する

社員は「怠けていない姿を上司に見せたい」と考えています。出社時は、社員の働きぶりが見えるので、一般的には、結果よりプロセスを重視する傾向にありました。しかし、オンラインで勤務状況が見えづらいことから、メールへの即時返信など、オンラインステータスへの過剰反応に繋がり、精神的負荷を高めてしまっています。そこで、人事評価を結果重視にシフトし、各社員のペース配分で仕事をコントロールできる環境づくりをお勧めします。

 

 A子のような若者は、仕事やプライベートでの他人との関わり合いを生きがいとする傾向にあります。オンラインお花見やバーチャル世界一周旅行などを企画し、社員同士のコミュニケーションに工夫を凝らす会社も増えています。単なるオンライン飲み会ではなく、今まで話したことがない人と話せたり、部署を超えた交流を、部活的なノリで楽しめるイベントは、孤独感を和らげることに繋がります。

 

 また、社長から直接社員にメッセージを届ける、社員から社長に直に質問する機会を設けるなど、オンラインならではのオープンな雰囲気を作ることも会社と社員の一体感を生み出す効果があることでしょう。

 

 

コロナが収束しても在宅勤務が続く中、社員の健全なメンタルを維持するには、上記のように社員の心理的な安全性を確保することが重要です。結果として社員の孤立化を防ぎ、能力を発揮しやすい環境となり、成果に結びつくことでしょう。自社で対応可能な施策から順次試されてはいかがでしょうか。

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 202211月号』拙著コラムより転載