「在宅勤務の限界と対応」

 コロナ感染が国内で広まり始めて3年が経過しました。多くの企業が感染拡大防止に向けて在宅勤務(テレワーク)へと切り替え、労働環境も大きく変化しました。一方で出社に切り替える企業も増えています。

 

東京都が111日に発表した都内30人以上の企業への調査では、テレワークの実施率は、202212月は52.4%となり、ピークであった218月の65.0%より12.6ポイント減少しています。

 

また、週3日以上のテレワークを実施する企業数も2212月は44.6%となり218月の51.6%に比べ7.0ポイントと減少傾向にあります。コロナ初期には普及が加速したテレワークですが勤務体制の見直しが始まっています。職種によるテレワークの向き不向き、育児や介護など社員の家庭環境による働き方へのニーズの違いが明らかとなっています。

 

 経営コンサル業A社の事例です。

A社では、コロナによる行動制限から完全在宅勤務に切り替えました。当初は社員全員が在宅勤務を歓迎し、特に子供のいる社員は、通勤時間分を家事や育児へ振り分けられると期待していました。また、付き合いの長いクライアントとのリモート面談では、感染リスクが避けられ、意思疎通に問題はありませんでした。

 

ところが、新規のクライアントを担当する社員から不満の声が出始めました。コロナ前から付き合いのあったクライアントと異なり、事前に社内調整が必要な事例も少なくありません。リモート面談では相手の真意や微妙なニュアンスを汲むことが出来ないばかりか、社内のリモート会議ではチームメンバーとの意思統一が図れない事態も起こり始めました。結果、クライアントが満足する提案を出せずに契約が解除されることがありました。

 

これを機にA社では、在宅勤務の問題点を洗い出しました。すると、様々な問題点が明らかとなりました。

    社内の連携(意思の疎通)が難しい・・・定型業務あるいは個人の特殊スキルで完結できる仕事であれば期限さえ守れば差し支えないが、新規顧客やチーム単位で進める業務では、各部署への調整や意思の疎通が重要でありニュアンスが伝わりにくいため行き違いが生じる

    仕事と私生活が切り離せない・・・狭いワンルーム暮らしの単身者や、家族を抱え自室を持てない場合は特に、公私を区切ることは困難か不可能で工夫を凝らしても限界がある

    長時間労働になりやすい・・・メールや電話は、勤務時間外に行わないように指示はあるが、責任感から対応してしまう

    運動不足になる・・・タニタの社内調査では、コロナ前の平均歩行数11,500/日が在宅勤務導入後は平均8,165/日と約30%減少、中には70%以上減少した事例もあり、運動不足によるストレスや肥満のリスクを抱えている

 

そこで、勤務パターンを3つに分け、➀在宅勤務型、②完全出勤型、③在宅と出勤を組み合わせたハイブリット型、としました。勤務パターンの選択は、チーム単位あるいは各自による申告制とし、都度、制度の見直しをかけることにしました。

 

その後、テレハーフ(午前と午後のどちらか出社する)を追加するなど、働き方のバリエーションを増やすだけではなく、勤務時間外メールや電話を禁止し労働時間を短縮する、午前・午後の2回ストレッチタイムを設け、在宅勤務でもストレスを蓄積せずに業務効率を上げられるよう改善を続けています。

 

 

コロナ以降、働き方そのものや従業員の働くことへの価値観や意識も大きく変わり、企業は対応に苦慮しています。上手に対応している企業に共通するのは、考え過ぎず失敗を恐れずに、臨機応変に解決策を講じていることです。自社に適した働き方を検討されてはいかがでしょうか。

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 20232月号』拙著コラムより転載