『飲酒運転への対応』

コロナ自粛から解放され、同僚との懇親会で羽目を外したために起きた出来事です。

 

地方都市の製造業A社(社員40名)の社員B男(25歳)は、同僚との懇親会に自慢の新車を運転し参加しました。酒席であり公共交通機関を利用するのが当然と考えていた同僚は驚きました。

 

閉会後、酒を飲んだB男に対し同僚は、運転代行を利用し帰宅するよう伝えました。ところがB男は、大して飲んでいないから大丈夫だろうと高を括り、自家用車で帰路につき物損事故を起こしてしまったのです。

 

事故の衝撃を感じずそのまま運転していたところ、眠気に襲われ、エンジンをかけたまま路肩に停車し仮眠をとっていました。近隣住民から不審な車があると通報を受けた警察官により職務質問を受け、基準値を超えるアルコールが検出され逮捕されました。初犯であり、取り調べに対して飲酒運転と物損事故を素直に認めたことで、検察に送致されることなく釈放されました。

 

弁護士より連絡を受けたA社は、幹部社員や懇親会に参加した同僚社員を招集し、状況把握と課題を次のように整理しました。

➀就業規則上、勤務時や私生活時を問わず飲酒運転は懲戒解雇相当であること、

②弁護士の話ではB男は深く反省し過ちを繰り返さないと話していること、

③B男の働きぶりは評判が良く、今まで懲戒処分を受けたことがないこと、

④同僚社員が、B男への対応が甘かったと責任を感じており、穏便な処分を会社に求めたこと、

⑤当件は、地方紙の片隅に記事掲載されたが、本人の氏名や会社名は公表されなかったこと―――

 

 釈放後、同僚たちの視線を避けるために社長が喫茶店で面談を行うと、B男は周囲に多大な迷惑をかけた、と涙ぐみました。社長は、スピード対応が重要であると考えていました。時間の経過とともに行為の重大性の認識と反省の気持ちが薄れるためです。

 

 今後の対応策を次の通りとしました。

➀飲酒運転は、人身事故にも発展しかねない許しがたい行為であり、2度と起こさせないように再教育を行うこと、

②今後、車で参加し飲酒した者がいる場合、同席した社員に対しても運転代行で帰るまで見届けさせるよう教育を行うこと、

B男の会社への貢献度合いを鑑みると解雇することはA社にとっても好ましくなく、継続雇用すること―――。結果、B男に対する処分は、1週間の出勤停止(有給消化)と1か月の減給(10%)、当日同席した社員の処分は、厳重注意としました。

 

 法令順守が厳しく求められる近年においても、飲酒運転による物損事故は少なからず起こっています。厳格な姿勢で対応しようとする会社は、勤務時・私生活時を問わず「飲酒運転=懲戒解雇」と就業規則で規定しているケースがあります。

 

 ところが、バスやタクシーなどの旅客運送事業に従事していない限り、私生活時の飲酒運転で即、懲戒解雇することは現実的ではないと言えます。また、無理に懲戒解雇せずとも、居づらくなって自ら辞めていくケースも見受けられます。

 

A社の場合、飲酒運転の影響、人手不足といった会社の置かれている状況などを鑑み素早く対応しました。社長や同僚社員が寛容であったため、B男はその後、仕事で貢献を続けています。

 

問題が起こった場合には、会社の規模、文化、地域性に加え、社長の考える経営哲学によっても対応は異なります。自社にとっての罪の重さと懲戒処分とのバランスを踏まえて総合的に考え、社長自身が形式に囚われない判断をすることが肝要である、と感じる出来事でした。

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 20237月号』拙著コラムより転載