A社(設備メンテナンス業、社員40名)で起きたB部長が起こしたパワハラ騒動の事例です。
人事の担当役員に、B部長が若手社員にパワハラ行為を行っていると内部通報がありました。報告を受けた社長は、B部長の課長職への降格を即決し処分内容を社内掲示しました。
他役員から「就業規則に沿わない感情に任せた性急な処分ではないか」と指摘され取り下げましたが、B部長に加害の意識はありませんでした。
厚生労働省が定める職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
最初に、現場の社員に聞き取りや匿名のアンケートを行うと、「仕事は気合と根性で克服しなくては結果が出ない」と話し、職務内容を質問しても答えず、「言う通りにしろ」と怒鳴っているとのことでした。
人事担当役員と対応を話し合いました。①B部長に社員への聞き取りやアンケートの結果を伝えると共に、加害者向けのワークショップ型研修に参加させ、自らの行為に気付かせることが第一であること、②被害社員へは、会社としての対応策を伝えつつ、メンタル面のフォローを行うこと、③当件は人事役員預かりとし、対処についてはこの役員から社長へ随時相談を行うこと。
次に、B部長を研修に参加させるに当たり、加害の自覚と改善の必要性を感じているか確認するため、50項目に及ぶ「自己チェックリスト」に記入させました。項目の一つや二つは思い当たることで、他人事ではないと知ってもらいます。パワハラの一番の問題は、加害者本人が無自覚で行っている点です。
関係社員へのアンケート調査、自己チェックリストと関係各者への面談により、複数の視点からパワハラの実態をあぶりだすことが出来ました。B部長がパワハラをしてしまう原因は、自分の能力を超えたポストにつくことで生じているものでした。自身の能力不足は認めず、「仕事がうまくいかないのは部下のせいだ」「部下の仕事が遅いから取引先に怒られるんだ」という責任転嫁を行っていました。結果、部下への八つ当たりに走っていたのです。
対策としては、ノルマを減らすなど会社の期待値を下げることにしました。ストレスレベルを下げることで、自身の行為に向き合う余裕が生まれ、部下への態度が好転することを期待しました。
今回、対策を素早くは打ちましたが、B部長自身がパワハラ体質から脱却できるかは、本人の意識次第です。アドラー心理学では「自分は変えられるが、他人は変えられない」と言っています。まず、自分が変わり相手を受け入れ、受け入れられたと感じた相手が自分を受け入れてくれます。
そこで初めて『信頼』をベースとした上司と部下の関係が成り立つのです。B部長ばかりではなく、今後、ハラスメント加害者を出さないよう人事担当役員と共に、面談、アンケートやワークショップ型研修を通じての意識改革が続きます。
第一法規『Case&Advice労働保険Navi 2023年8月号』拙著コラムより転載