『成長と競争心との関係』

 トレーニングジム・5店舗を経営する社長から、コロナが5類へ移行後もA店の業績回復が遅れており、打開策に知恵を貸してほしいと依頼がありました。

 

まず、A店長と面談しました。15年目の優秀な店長で、業績を回復させたい気持ちはあるものの、「どこから手を付けたらよいかわからない」と話していました。一方で、過去、他店より実績があったことで慢心している様子も垣間見えました。

 

その後、社長と相談し、A店長のやる気を引き出す策を講じました。具体的には、同業者B男を、定例ミーティングに招くことにしました。B男は、5年前に社長から独立し、成果を出し続けています。実は、A店長とB男は幼馴染であり、リトルリーグではバッテリーを組むなど気心の知れた良きライバル関係でした。

 

ミーティングに招かれたB男は、経営者として説得力ある実体験を語ります。A店長は、目をキラキラさせながらB男の集客施策に引き込まれていきました。顧客のやる気スイッチを入れる対話術、猛暑の中での来店への感謝の気持ちの伝え方など、心を掴む接客対応が次々に披露されました。

 

余程刺激を受けたのでしょう。A店長は、翌月のミーティングで、顧客の満足度アップを追求した施策の数々を提案してきました。A店長の変化に社長も手ごたえを感じ、早速、提案の導入を決断しました。A店長には伸びしろがあり、成長が期待できるとご満悦です。

 

このように、優れた競争相手と自己を比較することで、自身の姿を客観視できるようになります。成長の初期段階では、きっかけとして競争相手に恵まれることが理想となります。

 

恰好いい、うらやましい、素敵だ、といった憧れや敬意の感情と共に、A店長の場合、負けたくない、飛躍したいという成長意欲が掻き立てられました。様々なアイデアを生み出す原動力となり、最終的には、人に認められたいという「承認欲求」が満たされました。A店長にとって、B男はぴったりのライバルで効果てき面だったのです。

 

このケースでは、上司が部下のライバル心に火をつける環境を作り出しましたが、本人が意欲をもって取り組むことが必要です。本人自ら競争心、成長意欲を高める方法がいくつかあります。

少しでも高レベルのライバルを選ぶ

例えば、同期よりは数期上の先輩に「負けませんよ!」と宣言します。先輩も後輩に抜かれまいとするので、ライバル関係を築けます。

②少し負荷をかけて行動する

競争心を高めるためには、目標に向かい続ける持続力と行動力が必須です。そのために、自らに少しずつ負荷をかけることが必要となります。例えば営業職であれば、訪問件数を1/日増やすと、250/年となり成功確率も上がります。

③ポジティブな自己暗示をかける

「自分は出来る」「勝てる」と自己暗示をかけることで、ポジティブになり、自信をもって行動できます。

④自分の進むべき道を決める

自分の「理想の姿」を想定し、良い点は伸ばしつつ、足りない点は補う術を模索します。

⑤競争に勝って得られる報酬をイメージする

報酬があれば頑張りが続きます。例えば、尊敬されたい、周囲から注目されたい、昇給したい、など得られる報酬を思い描きます。

 

最後に、健全な競争は成長にプラスとなりますが、結果が伴わない場合、注意点があります。それは、競争心を持っても成果につながらないと、嫉妬心や劣等感を抱くようになることがあり、その場合は、自尊心を下げるだけでなく、相手や周りとの関係が悪くなることです。負けないために相手を蹴落とす、相手の成功を素直に喜べない、といった状況は成長に繋がらず自身が不幸になるだけです。

 

 

上司が、部下の成長意欲を育てる場合に留意すべきは、次の考え方を伝えることです。どんな結果となっても、本人が自身の努力を称えるだけでなく、相手をも称賛し、相手から学ぶべきところは学ぶ謙虚な姿勢を貫くことです。

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 20239月号』拙著コラムより転載