『中高年転職の心得』

 A社(創業30年、建設業、社員40名)の社長から相談がありました。3カ月前、転職エージェンシーからの紹介で、B男(52歳)を、経営幹部候補として厚待遇(約800万円・前職と同額)で採用しました。

 

B男は、大手建設会社・勤続30年の管理職で、新卒時からゼネラリストとして育成され、民間資格も多数取得していました。しかし、勤務を始めると、仕事ぶりは期待外れで今後の対応に苦慮していました。

 

早速、B男と面談を行うと、風土の異なる会社で働くことへの覚悟が足らないことが分かりました。他社員からの聞き取り結果を合わせると、次の問題点が判明しました。

➀前職での慣習で業務を進めようとし、周囲との間に軋轢を生じていたこと、

②好待遇での採用にも関わらず、早期に結果が出せていないこと、

③大手の前職では分業制だったが、中小のA社では自己完結が求められ上手く対応できていないこと-。A社の試用期間は6カ月で、B男の期間は残り3カ月です。社長と相談の結果、引き続きこの間の様子を見ることになりましたが、正式採用へのハードルは高いでしょう。

 

B男のような中高齢での転職者の問題点は、次の通りです。

 

第一に、準備不足です。転職に関する情報収集や分析を行い、待遇、やりがい、プライベートとのバランスなど、どこに軸を置いて転職をするのかが整理されていません。同僚の肩たたきを間近で見、次は自分の番だと不安を募らせていたのに、専門性や自己の客観的な市場価値の分析をしてきませんでした。

 

第二に、転職後の人間関係の構築のまずさです。転職先に馴染めない原因は、前職のルールや慣習を引き合いに出し批判する、過去の成功経験を周りに押し付けるなど、自身は変わろうとしません。特に、転職歴のない人ほど、長く所属していた前職での行動様式、文化に染まっていて、それが社会一般の常識であると思い込んでいる節があります。転職先では、先輩社員へのリスペクトを忘れず、指摘されたことは素直に聞き入れる姿勢が大切です。スキルや経験を時代や環境に合わせてメンテナンスし続けなくてはなりません。

 

第三に、即戦力人材として採用されていることを理解していません。36カ月以内に期待される成果を出せなければ評価されないのです。プロセスよりも何より成果が求められます。会社から求められているゴールからずれないよう、自分の役割や仕事内容について、上司やキーパーソンと密に擦り合わせながら働くことも大切になってきます。

 

第四に、少人数の中小企業では、業務の一気通貫が求められることを理解していないことです。社内にない仕組みや制度は、ゼロから作り上げる覚悟が必要です。転職前、可能であれば、中小企業で働く人から聞き取りしたり、実際に職場体験させてもらったりすることで、働くイメージを描けるでしょう。

 

最後に、目先のお金に囚われないことです。中高齢の転職希望者は、2~3割の年収ダウンを受け入れる覚悟が必要です。ただ、過ごす時間によって状況は変わるもの。業績アップに貢献し、経営者に認められることで賃上げ交渉を行うことは十分に可能といえます。

 

もし、期待する成果が出せなかった場合、若手社員のように配置転換によって他部門で活躍することも難しいでしょう。また、現待遇を維持することも困難になるかもしれません。採用時には低めの条件を受け入れるなど慎重な姿勢で臨む必要がありそうです。

 

 

中高齢になって転職を志す人は、覚悟を決め、自己の専門性と市場価値を知り、自己分析により強みを伸ばし、転職先で好かれる態度や姿勢を身に着けるなど、早い段階で意識を変えることが重要です。

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 202311月号』拙著コラムより転載