『テレワークの行方』

 コロナ感染症が第5類に移行後、在宅勤務(テレワーク)から出社に切り替える企業が増えています。

 

 東京都が11月に発表した都内30人以上の企業への調査では、テレワークの実施率は、202310月は44.1%となり、ピークであった218月の65.0%より▲20.9ポイントとなります。

 

 また、週3日以上のテレワークを実施する企業数も2310月は45.6%となり218月の51.6%に比べ6.0ポイントと減少傾向にあります。職種によるテレワークの向き不向き、育児や介護など社員の家庭環境による働き方へのニーズの違いが明らかとなりつつあります。

 

 事務代行業A社の事例です。A社では、204月より完全テレワークに切り替えました。当初、社員全員がテレワークを歓迎し、通勤時間分を家事や育児、自己啓発へ振り分けられることに満足していました。また、対外的にもリモートによる面談は、感染リスクが避けられることで概ね好評でした。

 

ところが、3年半を経過するとテレワークの問題点が浮き彫りとなりました。

➀情報交換が不足し、クライアントからサービスレベルが低下したとクレームが出ていること、

②新人・転職社員に対する管理・指導が行き届かないこと、

③社員同士の触れ合いが少なくなりモチベーション維持が難しいこと、

④健診結果から運動不足よる肥満傾向がみられること、

⑤労働時間の把握が曖昧となり、社員は残業申請をしにくいこと―。

 

ある日、A社長は、他社の動向を踏まえて、全社員を出社に切り替えました。ところが、多くの社員から不満がでました。これら社員は、煩わしい人間関係や通勤地獄から解放されストレスが減った、勤務時間の途中で家事ができる、子供の送迎時間に余裕が生まれたなど、テレワークによる恩恵を受けていたのです。

 

中には、テレワークが出来ないのであれば転職するとまで言い出したり、不満をSNSに投稿する者まで現れました。

 

 A社長は、導入背景の説明に努めましたが不満の声は収まりません。そこで、次のように代替策を講じました。

➀当初3か月間は、毎週金曜日を全員出勤日とし、他の週1日を各自が出勤日を自由に選択できる「週2日出勤体制」とする、

②フリーデスクと個人別ロッカーを設置する一方で、私語厳禁の「高集中作業ブース」を設置する、

③休憩スペースに無料のコーヒーメーカーとお茶菓子を設置、18時以降はアルコール類も選択可能とし、コミュニケーションを促す、

④制服を廃止し、髪色、ネイル、ピアス、カラーコンタクトなどは清潔感さえ保てれば原則自由化する―。

 

 社員も概ね納得したため、新制度のスタートを切りました。今後、問題が起これば一つ一つ解決していきます。

 

テレワークには、社員個々の事情に基づいて生産性を高めて働いてもらえるメリットがあります。しかし、Job総研の20231月の調査では、65%が「テレワーク中にサボったことがある」と回答するなど、勤務状況の把握は困難となっています。曖昧な基準で運用すると、部署や承認者が違うことで許容範囲が異なるなど、不公平が生じるため注意が必要です。

 

 

また、テレワークの積極的な導入は人材確保の観点からも重要です。2023年6~7月の「エン転職」の調査では、転職希望者の中で「テレワーク」の実施状況が転職活動に影響すると回答した割合が66%に達しています。テレワークを積極的に推進することで、通勤圏外に在住の優秀な人材を獲得できるなど雇用機会が広がります。

 

一方で、消極的な企業にとっては、求人が難しくなるばかりではなく、社員を他社に奪われる可能性もあると言えます。テレワークに上手に対応している企業は、コロナ前のように一律出社に戻していません。個別の事情を鑑み、日数を限定してテレワークを認める、業務効率が上がらない社員は都度判断するなど、臨機応変に解決策を講じています。自社に適した働き方を検討されてはいかがでしょうか。

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 202312月号』拙著コラムより転載