【業務委託への切替のポイントとは】

コロナ後、やむを得ず雇用契約から業務委託契約に切り替えた事例です。

 

 4店舗・社員30名・理容業のA社のB店舗では、競合店の乱立によりコロナ後も業績が回復しないため、閉鎖を検討していました。問題はB店社員の雇用継続の見通しが立っていないことです。各店舗では独立採算制をとっています。B店の閉鎖に伴い、社員の受け入れを他店舗へ打診しましたが断られました。

 

 交通費、社会保険料とその他の諸経費で、社員の雇用に少なくとも賃金の1.5倍かかります。他の店舗も業績を上げることに苦労しているため、受け入れの断りは当然の判断と思われました。

 

社長と議論を重ね、3つの方策を考えました。まず、経費の大部分を占める賃料の引き下げを検討しました。テナントオーナーとの交渉の結果、賃料は下がりました。次に、店舗売り上げからの社長に払われる報酬を引き下げることにしました。

 

さらに、社員を雇用契約から業務委託契約へ切り替え、歩合制の報酬を提案することにしました。業務委託契約にすると社会保険料の会社負担はなくなります。現状の給与水準では、損益分岐点には達することが出来ないため苦肉の策となります。

 

これらの浮いたコストを使い、B店の損益分岐点ギリギリとなるように報酬を設定することで、社員にとっては以前の給与を上回ることも可能です。また、独立志向の強いB店社員のため、一日も早く開業できるよう社長自ら経営ノウハウを指導、責任感や覚悟、経営感覚を身に付けてもらうことにしました。

 

 後日、B店社員向けに説明会を開催しました。B店社員は個人事業主となり報酬が上がる反面、交通費のほか、国民年金、国民健康保険の各保険料を負担することになります。社員たちは当初、警戒している様子でした。社長は、過去の財務諸表を開示し、今後の売り上げから社長の報酬を請求しないことを伝えました。自ら痛みを取る姿勢に社員は納得したのか、社長の真摯な思いは受け入れられました。B店は業務委託契約で再スタートすることになったのです。

 

業務委託契約を雇用契約と区別して成立させるためには、次のポイントがあります。

個人事業主が締結する業務委託契約の種類は、①請負契約、②委任契約・準委任契約の2種類です。

①請負契約は、委託された側(請負人)が発注者に業務の遂行を約束し、その成果物に対して報酬が支払われる契約です。請負人は発注者の指揮監督下で作業を行わず、独立して作業を進めます。WebエンジニアやWebライターなどが該当し、成果物の納品によって報酬が発生します。

②委任契約は、業務の成果ではなく、業務の遂行自体を目的とした契約で、法律行為の場合に適用され、対象は弁護士・社労士など専門業務に限られます。法律行為以外のことは準委任契約とされ、コンサルティング契約や今回のケースが該当します。

 

 元社員が業務委託の形態で仕事を受けるメリットは、

①仕事の進め方・働き方の自由度が高いこと、

②労働基準法の時間制限なしで働けるため収入を増やせること、

③仕事の種類・分野を選べること、です。

 

デメリットは、

①社会保険に自ら加入する、

②個人事業主は対象外となるため労働基準法に守られない、

③稼働量に応じた収入しか得られない、④確定申告などの税務上の手続きが必要、となります。また、202411月より全フリーランスが任意で労災保険に特別加入でき、会社員時代と同様に労災申請が可能となります。

 

業務委託契約書は、元社員が独立して業務を執行していることを明確にする必要があります。契約書には「請負契約であること」「指揮命令を受けないこと」「時間的拘束を受けないこと」「結果に対して報酬を受け取ること」を明記します。

 

 

各地の紛争や異常気象による諸物価の上昇、人材確保が難しいなか採用コストの急上昇など、中小企業を取り巻く経営環境は厳しくなっており、社会保険料などの会社負担を回避するために偽装請負を考える企業も少なくありません。

 

しかし、安易な業務委託契約の締結は、社員に不信感を抱かせるだけで業績には繋がりません。さらに、違法と判断されれば会社の信用に傷がつくばかりでなく、罰則の適用を受けることもあります。慎重に相互理解を深め、契約書の整備を含め法令を遵守した体制を確立することが肝要です。