
【背景】小売業A社(130名)で、職場を振り回すパート社員にまつわる対処事例です。転属されたばかりのA社副店長から相談がありました。
勤続10年のパート社員B子(60歳)を定年後1年契約で継続雇用しましたが、問題が多く改善が見られなければ次回の更新で満了したい、退職時に労使問題で揉める事例も多いと聞いているので、つつがなく進めたいとの趣旨でした。
【状況】代々の店長は、本社からの天下りで、2~3年の在任期間を波風立てずに終えることに拘っていました。
B子は、総務課所属で店舗運営のアシスト業務のほか、経理業務を一人で仕切っていました。社内ルールを無視するどころか上司の指示に従いません。しかし、迫力あるB子に注意する人はおらず、長らくこの状態は放置されてきました。他の社員からB子の勤務態度について度々苦情相談がありました。
具体的には、・経理業務を自らブラックボックス化し他社員には関与させない、・席替えを行ったことが気に入らなかった様子で、隣にあったコピー機が10m程離れたことで足を痛めたと主張し車椅子での通勤を要求する、・エアコン冷気が直接当たるのでのどを痛め全て筆談で対応すると宣言する、・他社員の冷たい対応で精神的に追い込まれ鬱になった、などと自分勝手な発言や振る舞いが日に日にエスカレートしていました。
【問題点】問題点は、➀B子に対し上司が指導・教育を怠ったことで業務に悪影響がでていること、②経理という基幹業務を特定のパート社員が独占し業務内容が不透明になっていること、③B子の身勝手な振る舞いを真似る社員が現れ始めたこと―、です。
【解決策】就業規則を確認すると、定年後65歳迄の再雇用制度は、会社が契約を終了したくても本人が合意するか懲戒規程に抵触しない限り、毎年更新される規程でした。現状では、B子の態度が改善されなくても、本人が退職に合意することはないと考えられます。今のところ注意する人もいないので懲戒されたこともありません。
検討の結果、①問題社員は見過ごさずに都度指摘し注意・指導を行うこと、②経理処理は複数人で対応し業務の透明化を図ること、③第2のB子が現れないように研修教育体制を見直すこと、④B子の主張する症状に対する診断書を提出させること―、としました。
④のB子が主張する健康被害の診断書は、いつまでたっても提出されないため、産業医との面談を勧めました。ところが、B子はのらりくらりとかわすばかりで受診しませんでした。
指導に関しては、改善されなかった場合を想定し、契約満了迄の半年間に、懲戒規程に沿って、譴責の段階である始末書や改善指示書を通じて注意・指導の段階を踏みます。改善されなければ、減給、出勤停止と進めることにしました。
店長と相談の上、副店長自ら毎週、面談と書面による業務指導を始めました。前週の指導内容に対しては、期限を設け書面にて時系列の業務内容と進捗結果の報告を求め、更に次週の指導内容を書面にて指示しました。当初は期限内に提出していましたが徐々に滞り始めました。B子の業務日誌は、空白だらけで仕事をしていない実態が浮き彫りとなりました。3カ月後、B子から契約満了に伴って退職したいとの申し出がありました。
【ポイント】今回は副店長自身が次期店長に昇格した時点のリスクを想定し、専門家の意見を取り入れて、店長や周りの社員を巻き込むことで解決できました。問題社員への対応の鉄則は、①覚悟をもって毅然とした態度で臨むこと、②諦めず淡々と注意・指導を継続すること、③相手からどんな批判を受けてもキレずに冷静に対処すること―、です。
【まとめ】もし副店長も保身に走ってB子を放置していたら、他の社員の会社への不信が高まり、更に士気の低下を招くところでした。上司の逃げ腰な姿勢に見切りをつけ、優秀な社員の退職にも繋がったかもしれません。
副店長は、B子からの批判や事なかれ主義の上司から「仕事を増やすな」と言われながらも、就業規則に則り淡々と対処し続けることで解決に導きました。今回のことをきっかけに、社員が困難から逃げずに前向きに業務に取り組む企業風土に変わることを期待します。