【立場の違いからくるコミュニケーションギャップを埋めるには】

【背景】A社で、創業時からの社員B子と定例面談を行っていたときのことです。B子は、いつになく暗い表情を浮かべていたため、最後に「悩み事でもあるの?」と尋ねてみました。すると、社長とのコミュニケーションに悩んでいると話し始めました。

 

「以前ならすぐ対応してくれたのに、先月、社長へ業務の改善を提案しても反応が返ってきませんでした」、ほかにも、「ミーティング中、全員へ意見を求めていた感じだったのに、私の番は回ってこなかったんです」と話し、だから社長に嫌われている、と訴えるのでした。

 

 後日、社長に確認すると、改善提案の件は、指示した部下が多忙でB子への返事が遅れているだけでした。また、ミーティングの件は、時間が迫っていたための対応でした。どれも他意はなく、B子が社長との心理的な距離を感じていたことによる、過度な不安からの思い込みでした。

 

【課題】B子は、現状と、社員数10名ほどで社長とのコミュニケーションが密な創業期を比べていました。組織が大きくなるにつれ自分と社長との間に管理職層が入り、以前より社長を遠い存在に感じています。A社は成長期に入り、社長は多忙を極めていました。B子とのやりとりが多少ぞんざいになっても、長い付き合いだからわかってくれるだろう、と気に留めていませんでした。一方でB子は、多忙となった社長への遠慮も生じ、以前のように気軽に話しかけられないもどかしさを感じていたのです。

 

【解決策】創業者と創業社員との間で、心理的な距離を感じることはよくある話です。このような場合、物理的にも双方の接触頻度を上げることがポイントです。具体的には、毎月1回、社長と創業社員の個別ランチ面談を実施することにしました。ランチを選択した理由は、時間に制限があり、就業中で飲酒なしなので感情抑制が効かなくなる要因がないためです。

 

【留意点】社長が社員の話を聞く場合に心掛けることは、次の4つです。①社員が話しやすい柔らかな雰囲気をつくる、②社員と社長が話す割合は8020とし、社長は聴く姿勢に徹し、社員側に言いたいことを吐き出させる、③社員の話を最後まで聞く、④洞察力を活かし言葉の裏にある本音を探る―。

 

聴く姿勢にも工夫が必要です。大きく頷くなどのボディランゲージは、確かに向き合っている真摯な態度が相手に伝わります。相槌を打つことも、話し手の気持ちを上げ、より話を引き出すために大切になります。相槌には、「なるほど」、「たしかに」、「そうなんだ」、「わかるな」、「それから?」などの言葉が該当します。

 

社長は経験上、社員が話す内容の結論が見えてしまうため、社員が話し終えるのを待てずに遮り話し出し、まとめてしまうといった、せっかちな対応に陥りやすいので注意が必要です。このような態度では、話しても無駄だと社員は心を閉ざしてしまうので、面談の意味がなくなってしまいます。

 

また、相手の言葉や態度から心の内を読み解く洞察力は、感性を磨くことで養われます。日頃から複数の視点で見るよう努めることでも感性は磨かれます。ある社員の発言に対して他の社員がどのように感じたかを素直に聞き取り、自身の感覚とのギャップを埋める努力を続けることが肝要となります。

 

 

【まとめ】事例のような創業期から成長期に入った社長と社員の関係のみならず、上長と部下とのコミュニケーションギャップについても、同じ解決策となります。上長は部下の「声にならない声」を聴けるようでなければ信頼を得られません。

 今一度、立場の違いがもたらすコミュニケーションギャップにより信頼関係のぐらつきがないかどうか、振り返ってみてはいかがでしょうか。

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 20256月号』拙著コラムより転載