【服務規律が活きた問題社員対応】 

【背景】製造業A社では、職場環境を乱す社員に困っていました。対応次第では会社が社員から訴えられる事例も少なくないため、慎重に対策を講じたいという相談がありました。

 

【状況】企画営業社員B子(45歳)の身勝手な振る舞いが、ここ数ヵ月で度を越してきていました。B子は他社での経歴を買われ、4年前に入社した転職者です。社内では孤高の人といった感じで、企画、営業、課題解決など一人でやり遂げ、成果も出せる有能社員ではあります。会社への貢献度も飛びぬけて高く、社長も厚く信頼していました。

 

しかし、近頃はB子の振る舞いを苦々しく思う社員から、行状を聞かされることが増えてきました。ただ、もし、退職されると大幅な戦力ダウンになってしまうため、社長も上長も皆、B子の機嫌を損ねないよう腫れ物に触るかのような対応を続けていました。実は、身勝手な行動が始まったのは、数ヵ月前の社長とB子のやり取りがきっかけでした。その日、B子が貢献度を盾に年棒の大幅増加を要求し、社長は認めてしまったのです。

 

これを契機に、自分は何をやっても許される、とB子は考えたようです。次のような傍若無人な行動がみられるようになりました。

①プロジェクトが一区切りつくと次のプロジェクトまでの間、規程にない在宅勤務を行う、

②出社時刻を勝手に15分遅らせ、他社員にも従うように要求する、

③会社貸与のスマホをなくしても謝罪せず代替品を要求する、

④事前申請なく業務に使った自家用車への給油を会社の給油カードで行う、⑤格上の人には丁寧な物腰であるが、他社員には高飛車でパワハラが疑われる言動もみられる―

 

【問題点】A社の就業規則に則ると、上記5項目の全てが、服務規律の「正職員は、会社が定める規則及び業務上の命令を遵守し、風紀、秩序の維持並びに能率の向上に努め、互いに人格を尊重し、誠実に自己の職務に専念しなければならない」、に違反しています。項目毎、規定と照らしてみました。

 

①の無許可の在宅勤務は、「勤務時間中は、あらかじめ許可を得ることなく職場を離れ又は他の者の業務を妨げてはならない」、②の出社時刻の変更は、「始業事項と同時に業務を開始し、就業後は速やかに退社しなければならない」、

③のスマホ紛失は、「会社の備品等は丁寧に取り扱い、その保管を厳重にしなければならない」、

④の給油カードの利用は、「社員としての地位を不正に利用して、自己または第三者の利益をはかってはならない」、

⑤他社員への高飛車な態度の一部は、「社員は、教育、指導の目的であっても、他の社員に対し、暴行、脅迫、又は個人の名誉を毀損する等の言動を行ってはならない」とあり、すべて職場秩序を乱す行為であることは明らかでした。

 

B子の身勝手な行動に対し社長や上長が指導・教育を怠ったことで、業務に支障が出始めていました。社内の空気も悪化しつつあり、これ以上見過ごせません。ところで、社長が恐れているB子の自主退職ですが、いくら有能でも他社が現状の年俸以上を出すことは考えにくく、B子が今の環境を簡単に手放すとは思えませんでした。

 

【解決策】懲戒の根拠を示すと、B子は何も言い返せませんでした。まずは譴責処分を行いました。具体的には、始末書を提出させることで反省を促します。今後、同様な行為が続いた場合、減給、出勤停止、降格、と続き、最後は懲戒解雇に至る旨も説明しました。一方、経営陣に対しては、意思を統一し覚悟をもって毅然とした態度で臨むことや、諦めず淡々と注意・指導を継続すること、さらに、相手から非難を受けたとしても感情的にならず冷静に対処すること、の3点を確認しました。

 

【現状】B子は当初、今までと違う会社の対応に戸惑っていました。時間の経過と共に周囲の顔色を窺いながら行動するようになり、変化の兆しが現れています。時間はかかりますがA社が指針を貫くことで、会社もB子も変わっていくことを期待しています。

 

 

【まとめ】勝手気ままな社員の言動を放置することは、確実に他社員の会社への不信を高めます。問題社員をまねる者が現れたり、士気の低下を招いたりするばかりか、優秀な社員は及び腰の社長に見切りをつけ、会社を去るかもしれません。今回は、就業規則に服務規律を細かく載せていたことで、根拠をしっかり示すことができ、懲戒もスムーズに行うことができました。気持ちよく仕事のできる空気感が、自社に合った服務規律として言語化されているか、今一度確認してみてはいかがでしょうか。

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 20257月号』拙著コラムより転載