【背景】
今年10月から最低賃金が過去最高の上げ幅となりました。最高額は、東京都の1,226円(前年+63円)、最低額は沖縄県・宮崎県・高知県の1,023円(前年+71円)、全国の加重平均値が1,121円(前年+66円)となりました。政府は2029年までの今後4年間で、全国の加重平均値が1,500円になるように引上げる方針を掲げており、東京都と神奈川県の場合、1,600円を超える見通しです。また、初任給40万円を打ち出す企業が現れるなど、若手人材の獲得合戦が激しさを増しています。企業規模による賃金格差は拡大し、中小企業はますます採用で苦戦を強いられています。
【相談】
製造業A社長からの相談です。最低賃金の急上昇により、製造原価、物流費、社会保険料の会社負担など軒並み負担増となっている。賃金・物価上昇分を取引先に転嫁要請することは厳しい状況にある。人事面では、社員の高齢化が進み、若年層の採用が不可欠だが広告を出しても応募がない。若手人材の採用の方向性と具体策を考えたい。
【問題点】
賃上げ以外の対策はないか、次世代労働力の中心を担う世代が会社に求める傾向を整理しました。
就職支援各社の調査結果では、「給与額」より「働きやすさ」、「成長機会」、「人間関係」を優先する傾向があり、特に、1997~2012年生まれのZ世代は「自分らしく働くこと」、「プライベートとの両立」に重点を置いています。同様に 1981~96年生まれのミレニアム世代の多くは、必ずしも賃金の多少で価値を計りません。これら世代は、賃上げにこだわる代わりに、労働基準法などの法令遵守を求めています。
【解決策】
社内ルールを整備し募集時点の告知内容を刷新することにしました。具体的には、1.有給休暇の消化率アップ、2.残業代支払いの厳格化、3.残業実績の推移公表、4.副業の取得実績、です。各項目の解説は次の通りです。
1.「有給休暇の消化率アップ」
⑴取得しやすいルールを掲示…「〇日前までに申請」、「繁忙期を除く」などの情報を社内掲示で全員が見られるようにすることで、申請しづらさを解消する。
⑵取得計画表の導入…「年間有給取得計画」を各自に提出させ、管理職が調整、スケジュール化し、業務が回らなくなるリスクを防ぐ。また、管理職層が率先して休む姿を見せることで、部下も休暇を取りやすい文化をつくる。
2.「残業代支払いの厳格化」…残業代が10分単位の支給であったものを、1分単位に修正する。
3.「残業実績の公表」…自己啓発や趣味に費やす時間を増やすため、残業ゼロの曜日を指定し、定時退社への働
きかけを促進。更なる残業時間減少を目指す。
4.「副業」…既に認めているので、副業している人数、割合を数値化する。
【結果】
半年経過し、効果が徐々に現れ始めました。募集広告に刷新した内容を記載したところ、多い時は月に3件程度の応募がありました。若手中心の採用チームが発足するなど体制づくりが進んでいます。
【課題】
中小企業の多くは、「最低賃金✕労働時間」をベースに初任給を設定し、年功序列型の賃金体系を維持しているため、人件費の急激な上昇は、経営を圧迫しています。世代間のバランスを取ろうとしても、最低賃金の上昇分を中堅社員らにそのまま反映することは難しいなかで、待遇面で社員満足度を上げ続けるには、各種助成金の活用を検討することも必要でしょう。

