【働かない社員対応(2025編)】

【状況】

広告業A社から、社員B子(45歳)について相談がありました。コロナ禍の2年間の在宅勤務を終え出社勤務に切替えて以来、仕事が遅くやる気が感じられないのでどうしたらよいか、というものです。

 

B子は、就業中に隠すことなく大あくびをし、スマホばかりいじって終業時刻と同時に無言で会社を出ていました。他社員からは、B子の態度でやる気を削がれ困る、と言われています。

 

【これまでの対応】

日頃の勤務態度から、B子には重要な仕事を任せられないと上司である課長は考えていました。これまでも、態度や業務の進め方について口頭で注意・指導してきました。これに対しB子は、自身が仕事に取り組めない原因を「上司の指導方法が私に合っていない」、「同僚の協力が足りない」、と周囲を批判する始末で、当然態度など改善されません。結果、与えられる業務は、質、量とも不十分で、中途採用されたB子の給与に釣り合わないものとなっていました。

 

【問題点】

 状況から、B子が「認知的不協和」の状態になっていることが窺えました。認知的不協和とは、ある事柄について自分の認知と矛盾したもう1つの認知があり、この不一致から不快感が生じている状態を指します。

 

 仕事の場面では、例えば、自分は能力が高く評価されるべきと考えていても、現実では後輩の方が高く評価され自分を飛び越えて出世すると、認知的不協和が起こります。この場合、後輩が評価されているという、自分にとって矛盾する不都合な事実に対し、不快感を解消しようとする認知のゆがみが生じます。「あいつは能力はないくせに、上司に取り入るのがうまい」などと考えるのです。

 

 客観的にはそのような事実はなく、後輩の方が高い実績を上げているのですが、その現実を受け入れがたい心理が、自分を納得させるためのつじつま合わせをします。このような思考法が習慣になると、他責的となりがちで周囲との関係にも悪影響をおよぼすことがあります。

 

B子の場合、自分は仕事ができる社員だと考えていました。ところが、上司や他社員からの評価は反対で、業務レベルはかなり低いと見られています。自己イメージとかけ離れた、仕事ができない人として扱われている現実を受け入れられていません。自分の認識との不一致を解消するため、上司の指導不足などをあげつらい自己と向き合わず責任転嫁してきました。

 

B子本人に現状を正しく認識させるには、本来背負うべき業務の質と量を与え、達成できていない事実に向き合わせることにしました。

 

【解決策】

経験年数と給与相応の業務量と質を課し、毎日、詳細な日報を提出させることにしました。毎日の終業後、課長が内容を確認のうえ返信します。課長は、膨大な業務を抱える中で、手間を要すると考えられたB子との日報チェックに、当初難色を示していました。しかし、チェックに生成AIを使うと、課長が考えていたより時間はかかりません。さらに、客観的かつ冷静に情を入れず行え大いに活用できる方法でした。

 

 1カ月が経過しました。日報には空白が多い、簡単なメール送信にも数時間を要する、週に何度も同じ取引先にアプローチしている割には売上に繋がらない、などの勤務実態が明らかとなりました。

 

課長は、AIを駆使して感情を入れず添削、コメントを添えるなど根気強く指導を続けています。一方、B子は、自己イメージと成果との間に生じている隔たりを認めざるを得なくなってきています。

 

【まとめ】

 

そもそも雇用契約は、労務の提供とその対価としての賃金の支払いで成立しています。仕事をしない社員に対しては、放置したままにせず、本人の経験年数や賃金に見合った業務を与えて労働の成果を求めることが肝要です。問題社員にも、労務の提供を求めつつ、会社側が覚悟を決め指導、教育することで解決の糸口が見つかることでしょう。

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 202511月号』拙著コラムより転載