【背景】
新卒者が減少し企業間での奪い合いが加速する中、大手企業を中心に初任給が急増しています。最近の報道では、エーザイが2026年4月入社の大卒初任給を35万円へ、セガは33万円へなど引き上げが続き、初任給を40万円に設定する企業さえ現れています。
初任給の引上げによる人材争奪戦が激化し、資金力に乏しい中小企業は苦戦を強いられています。
【相談】
建設業A社より相談がありました。複数社へネット広告を出しているが、半年以上20代、30代の応募はない。たまに応募があるのは50歳から上の中高年ばかり。社員の平均年齢は50歳前後となってしまい、次世代を担う若手の採用が不可欠である。何か打つ手はないものだろうか――。
【問題点】
現状、A社の初任給は、固定残業手当を含めて27万円、業績を上げている部長職なら月給80万円に達し、決して低い水準とは言えません。
一方で、40歳前後の中堅社員は、35~38万円と伸び悩んでいます。首都圏の大手求人サイトを検索すると、建設業では未経験者で30万円から、経験者で40万円からが相場となっています。A社は給与水準のために、応募者に選んでもらえていないと考えられました。応募者は、給与が高い順に検索するため、最低でも30万円以上であることが求められます。
ただし、初任給を大幅に増額するには、次のようなリスクが伴うことが問題です。①人件費の増加による利益の圧迫、②既存社員と新卒社員との待遇縮小によるバランスの崩壊、③給与額目当ての応募による採用ミスマッチの発生――。これらの対策を考える必要があります。
【解決策】
A社は近年、業績好調で決算賞与を支給しており、数年先まで安定した業績見通しとなっています。賃金シミュレーションの結果では、人材を確保することで受注を取りこぼしさえしなければ、30代・40代の中間層の賃金引き上げは可能です。
そこで、初任給を32万円に引き上げると同時に、30代・40代は初任給の上昇に伴い、年齢により厚みは異なるものの昇給させバランスをとりました。給与総額は10%程度の上昇が見込まれますが、決算賞与の枠内で十分に吸収できます。
また、給与額目当ての応募は、採用のミスマッチにより早期離職や居座りを招くことも想定されます。頭数さえ揃えば良いといった場当たり的な採用から、企業理念や価値感の共有が出来る人材を採れるように、採用基準を明確にすることが何より大切です。基準を明文化したうえで、質問項目を整理しました。
例えば、応募動機はA社のビジョンと適合しているか、賃金に見合う働きが出来ないときの配置転換の可否、などです。漫然と行っていた適性検査の結果を詳細に分析し、面談結果と照合し総合的に採否判断することにしました。
残った課題は、社長が給与を直感で決めてきたため、賃金テーブル、昇給基準など給与体系が整備されていないことです。今回を機にこれらを整えることになりました。
【まとめ】
初任給の引上げは、若手の応募数が増えることに繋がりやすいとはいえます。ただ、採用側が意識を向けなければならないのは、若手の応募動機は、初任給の大小だけではないという実態です。
帰属していることに誇りを持てるような経営理念が社内に浸透していることはもちろん、簡潔で夢を描き易い昇級人事制度――たとえば、成果次第で評価され早期に大幅昇給できる人事制度の有無、年収1000万円への到達タイミングはいつかが公表されている――への移行は不可欠となってきており、応募者ばかりでなく既存社員の流出防止にもなります。
これらの視点がない企業は、グローバルな人材獲得競争で闘えなくなってきています。

