【部下とのコミュニケーションの肝】

【背景】どんな業種や職場でも起こり得るハラスメントは、よく知られたパワハラ、セクハラ以外にも様々な種類が派生し続けています。相手の尊厳を傷つけ苦痛を与えるこの行為は、従業員のメンタルヘルス不調や離職を引き起こし、労働生産性の低下に繋がります。ハラスメント予防は経営にとって大きな課題です。

 

ハラスメントになるかどうかは、ハラスメントをされた側の主観が重視されるのがポイントです。この側面を理解するとコミュニケーションの問題に行き着きます。「コミュニケーションの型」を身につければ、ハラスメントの発生は予防できると考えています。

 

【問題点】

 社内では多くの場合、部下がハラスメントの被害を受けますが、ハラスメントを防止するために上司がアプローチを工夫する必要があります。部下が上司にわだかまりを抱える点は、主に次の3つに整理されます。

①上司が部下の話を途中で遮ってしまい対話にならないこと、

②安心して対話できる環境が整わず、部下は口をつぐむ状態にあること、

③本音を聴き出すまでの技術が上司に不足(整理力や言語化力の不足)していること――。

 

【解決策】

①について、満足な対話をするには、相手の話を最後まで聞き届けることが何より大切です。面談時間の7~8割は部下に語らせ、「部下の気持ちを汲み取る」心構えで対しましょう。

 ポイントだと感じた発言には「今の話って〇〇ということですか?」と聞き傾聴していることを伝えます。的を射た要約であれば頷いてくれますし、多少逸れていても「そこは〇〇なんです」と修正されるなど問答を繰り返すことで核心に近づいていきます。

 

②の安心できる環境は、上司側が意識的に作る必要があります。無意識にしがちの腕組み・足組みなど高圧的な態度をとらないことに注意しましょう。

 また、「だが、しかし、でも」などの否定語を使わないことにも気を付けます。相槌や頷きをしながら、部下が受容されていると感じやすい雰囲気をつくります。表情は口角を上げてニコニコします。パーソナルスペース(対人距離)は、正対せず、机の対角線上や90度で席に座り、親和の角度を意識します。

 

③で部下の本音の聴き出しは、面談内容をシートにメモし、整理して言語化していきます。メモの取り方で意識したいのは、面談シートを部下が見える位置、机の中央に置き記入することです。自分の話を上司が誤りなく聴き取っていることを部下が目視できることと、視線を相手と用紙に分散できるためお互いに緊張をほぐす目的があります。

 部下の悩み事は、各転職サイトの調査結果によると次の3つに分けられます。1つ目は「お金=賃金」に関すること、2つ目は職場の人間関係に関わること、3つ目は「将来への漠然とした不安でワクワクした将来像が見えないこと」です。この3項目と部下の日頃の行動から得られる情報を基に面談を行うことで、部下の悩みの核心に近づきやすくなります。

 

【留意点】

 留意点は、自己の経験や価値観を押し付けないことです。部下の考えを決めつけたりコントロールしようとせず、物語を聞くかの如く興味を示す姿勢が求められます。例えば、部下から「退職したい」と言われた時、「一つのことが続けられない人は何も身につかないよ」とか「もう少し頑張ってみようよ」などと上司の考えを押し付ける場面を度々見かけますが、それでは部下は本音を言えなくなってしまいます。

 

 相手に寄り添い、退職の決意に至った経緯を、「差し支えなければ、何があったのか教えてもらえないかな?言いたくなければいいけど」などと部下の気持ちを慮ったうえで問い、聞き出していきます。部下が悩みを打ち明けてくれることになれば、その部下を引き留められなかったとしても、その後の離職防止に繋がることでしょう。

 

 

【まとめ】

 コミュニケーションの究極は、信頼関係の構築です。管理職層がコミュニケーションの本質を掴み部下との信頼関係を築ければ、ハラスメント問題の根本原因である、意思疎通の不完全さが解消されます。ハラスメント問題を未然に防ぐことは十分可能と考えます。

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 20262月号』拙著コラムより転載