【背景】 人手不足の影響は、採用難ばかりか倒産をも招く事態となっています。人手不足が原因の倒産は、2025年1~10月の累計で359件に達し、2024年の年間342件を上回り過去最多です。
ますます採用難となっている中小企業では、「問題が起こらなければ良いのだが」と不安を覚えながらも、縁故採用に踏み切る会社も少なくありません。
【状況】印刷業A社の出来事です。採用に行き詰った社長は、次世代を担う人材として親戚のB男(26歳)と、中堅人材として友人C夫(50歳)を採用しました。
半年後、人事役員へこれらふたりに対するクレームや改善要求の匿名の投稿が続きました。ふたりが上長を経由せずに社長に直談判する、幹部社員も遠慮しふたりに注意・指導が出来ず業務が滞る、ふたりの業績評価が甘いと他社員が怪しんでいる――、とのことでした。
【問題点】さっそく行った調査内容を整理すると、4点が明らかとなりました。
① 公平性への不信感・・・知人だから評価が甘いという疑念が広がり、評価制度そのものの信頼が崩れている、
② 指揮命令系統の乱れ・・・直属の上司を飛び越え社長に相談するなど、上司がふたりに指導しにくくなったことで特別扱いする空気になっている、
③ 心理的安全性の低下・・・本音が言えずミスを指摘できないことで、他社員が意見や気持ちを安心して発せられない状況に陥っている、
④ 評価の歪み・・・上司がふたりの客観的評価をできなくなっている――。
【解決策】縁故採用は採用そのものではなく、特別扱いの余地があることが問題です。そこで、特別扱いできない制度を作り、全社員に会社の指針を周知することにしました。
具体的には、縁故により採用された者と現社員の双方に向けた、会社の縁故採用の指針を明文化します。1つは採用された人向け「入社誓約書」、もう1つは従業員向け「縁故採用に関する人事方針」です。
「入社誓約書」では、他社員と同一の規律・評価・処遇が適用されることを前提とし、社長または役員へ直接、業務相談や依頼を行わないこと、人事評価の不満がある場合にはルールに則ること、私的関係を業務に持ち込まず特別扱いを求めないこと、就業規則の違反時は他社員と同等の処分を受けること、私的関係を理由に組織秩序を乱す言動を行わないこと――、を記載しました。
「縁故採用に関する人事方針」には、採用経緯に関係なく、縁故で採用された人にも全社員と同じ就業規則・評価基準を適用すること、定められた指揮命令系統に従うこと、また、経営陣は特定の個人に対する特別扱いや便宜供与を禁ずること、人事評価や配属は規則に則り人事担当者の判断により決定することを明示しました。
さらに、縁故採用に関し、業務上の懸念や職場運営上の問題を感じた場合の相談窓口を作り、公平に対応することを周知することで、全社員が安心して能力を発揮できる職場環境を維持する旨、全体会議にて宣言しました。
【まとめ】今回の問題は、経営陣の採用難による焦りと同時に、縁故採用で生じうるリスクについての問題意識が欠けていたことが発端です。同時に、社員が経営陣へ率直に意見できない組織風土、社員の間に不満が蔓延している状態にありながら、経営陣が解決策を打ち出せていないことも明らかとなりました。この出来事を機に、風通しの良いコミュニケーションが図れる組織に変われることを期待しています。

